実験的肺塞栓症における冠状動脈血流量増加に関する研究
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概要
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急性肺塞栓症は主として急性右心室負荷にもとづく様々な臨床症状を示すが,その結果として,肺血流量の減少,左心室拍出量減少とともに心筋虚血の出現が古くから注目されていた.Virchowは肺塞栓の直接の死因として肺血管床の閉塞による肺性心症状やショック症状の他に左心室心筋血流量減少によっておこる心不全を提唱した.de Takatsら,Malinowらは実験的肺塞筐症で,またHornら,Dackらは肺塞栓症患者で観察される心電図所見が,しばしば心筋梗塞のそれと類似している事から左心室心筋の虚血性変化を重要視した. さらにCurrensらは肺塞栓患者の剖検で冠状動脈に硬化性病変を伴わない左心室心筋の虚血性変化を認めている.この原因として,ショック,低酸素血症,右心室負荷増大,さらにはpulmocoronary reflex vasospasmによる冠血流量減少が考えられていた.しかし,最近の動物実験で冠血流量は増加,不変と撮告されており,われわれも石松子による急性肺塞栓で左右冠状動脈血流量の増加を観察した.同様に肺動脈主幹部の急性狭窄による右心室圧上昇の際にも,冠血流量は増加6するか,最初減少し,徐々に増加すると報告されている.肺塞栓症における動脈血ガス分圧の変化についての報告は少なくないが,冠状静脈洞の血液ガス分圧の変動についての報告はみあたらない.冠状静脈洞血は,大部分が左心室心筋を灌流した血液からなっており,その酸素分圧は左心室心筋の酸素需給のパラソスをよく表わすとされているので重要視すべき所見である.著者は,肺塞栓の冠循環に一与える影響を明確にする為に雑種成犬をもちい,石松子による肺塞栓を作成し,電磁血流計によって左または右冠状動脈血流量を測定し,あわせて動脈血ガス分圧,冠状静洞血ガス分圧の動向をうかがい,さらに酸素投与下の影響を観察した.また,肺塞性の際,肺血管から冠血管への反射が古くから注目されており,Scherfらはpulmocoronary reflex vasospasmによる冠血流量減少を想定している.この反射の機序として,肺血管内に存在する受容体が,加圧あるいは組織の変化によって興奮し,自索神経を介して中枢に送り,そこから迷走神経を介して冠血管に遠心性ipulsを発し,冠循環動態に変化をきたすと考えられていた.著者は,肺循環から分離した左下葉の肺血管に加温自家血液を注入して加圧した際の左冠状動脈回旋枝血流量の変動を観察し,さらに,肺動脈主幹部の急性狭窄により肺血管が加圧されない単独右心室負荷を行った際の左冠状動脈回旋枝血流量を測定し,あわせて,動脈血ガス分圧,冠状静脈洞血ガス分圧の動向を観察し,肺塞栓症において肺血管に存在する受容俸を介して反射的に冠血管に与える影響についての参考とした.
- 社団法人日本循環器学会の論文
- 1974-08-20
著者
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