今昔物語集の人数表現について : 数量詞転移の文体差と用法及び数量詞遊離構文に関して
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概要
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本発表は,『今昔物語集』の人数表現約2100例について,その表現形式に文体差と用法差があることを明らかにした。今昔の人数表現を,A[○人](単独)・B[○人ノ《名詞》](QノN型)・C[《名詞》○人](NQ型・数量詞転移)・D[《名詞》《格助詞》○人](NCQ型・数量詞遊離)の4型に分類し,巻毎に集計した。すると訓読体を基調とする巻1〜20にB型が,和文体を基調とする巻22〜31にC型が多用されることから,B・C型には文体的対立があると見られる。また,同じ談話中にてB・C型が共起するものを見ると,談話における出現位置より,この両者には定・不定の関係がうかがえる(現代語においてはB型が定・D型が定または不定とされる)。B型は定・不定の両方に使用され,談話の冒頭(不定表現の位置)に,巻1〜20においてはB型・巻22〜31にはC型が多く出現するという傾向があることから,不定表現において,その基調とする文体によってB・C型のいずれかが偏頗して選択されたことが,結果として両者の量的な偏りになったものと考えられる。なお,今昔には,現代語では非文とされる,定名詞に不定数詞のついたB型も出現する。さらに,D型については大凡不定と見られるものの,その使用においてB・C型のような対立は見られない。D型は巻22〜31に偏って出現することから,和文脈に近い表現と考えられるが,平安和文の人数表現を調査するに,D型はほとんど見られない。よって,この時代,和文体において,いわゆる数量詞遊離の使用に発展があった可能性がある。以上より,今昔の人数表現においては,和文体が訓読体に較べ,不定表現においてのB・C・D型選択に幅のあったことが示唆されるものと考えられる。
- 2001-09-29
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