齒鑢の目立と燒入
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概要
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鑢の目立に関しては鑢の切味、其持続度及び刄の強度に影響大なる斜角の正斜角と負斜角との優劣を比較し、斜角と他の諸角度との關係を求めた。焼入に關しては、焼入温度が硬度、比重、顕微鏡組織、表面硬度の分布竝に焼割に及ぼす影響を炭素量1.4%の鑢鋼の試片に就いて焼入温度720〜880℃の範囲で研究し、810℃にて最大硬度となり、780℃附近にて硬度の変化著しく、比重も硬度に並行に変化する事を確めた。表面硬度の分布は820℃にて最均等となり、780℃附近に於て最不均等となり焼割を生じ易いことを明にした。従来の説では鑢の表面硬度の不均等は主として脱炭によるものとして説明されておるが一般に焼入後の表面硬度の分布は不均等となり、且つ其分布状態は焼入温度によりて一定の変化あることを發見した。而して此現象は従来見逃されて居つたのである。次に表面硬度の分布-焼入温度曲線に就いて考察し、急冷の際最冷却速度の遅い位置は重心点より上方に水中への投入速度に關係して変位し、各部の冷却速度の不同及び熱伝導に依りて急冷の瞬間に於ける各部の内部熱の分布の不同ある爲に組織の生ずる経路各部異りて硬度分布の不均等を來すことを証明し、之を熱傳導効果と称した。尚ほ實際の鑢を焼入して其表面硬度の分布状態が試片と同様なるを認めた故、焼入に關する上記の諸現象及び其説明も同様に適用し得るものと考へる。
- 1931-09-01