T細胞抗原レセプターα鎖遺伝子の発現制御機構の解析
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概要
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T細胞抗原レセプター (TcR) はその発現がT細胞の発生, 分化の段階において強くコントロールされている. その制御がどのように行われているかを知るために, ゲノムTcRα鎖遺伝子の3kb下流に存在するエンハンサー領域に着目し, その転写活性化の機序をCATアッセイを用いて解析することを目的とした. このエンハンサー領域中の4箇所の蛋白結合部位 (Tα1-Tα4) にさまざまな変異を導入したものにCAT遺伝子を結合したキメラ遺伝子を作成し, さまざまな細胞に遺伝子導入しエンハンサー活性を調べることにより以下の結果を得た. 1. Tα1-Tα2エンハンサーはT細胞においては強い活性を持つがB細胞では活性はみられなかったことよりT細胞特異的な活性を持つ. 2. Tα1とTα2に変異を導入したTα1-Tα2エンハンサーの活性を調べると, その活性発現にはTα1, Tα2の両方, 特にTα2が重要である. 3. Tα1-Tα4全エンハンサーにおいてTα2に2bp毎の変異を導入して調べるとその活性発現にはTα2のACATCC配列がきわめて重要であることを同定した. この配列はプロトオンコジーンets 1の結合部に著しく似ているため, ets 1産物のエンハンサー活性に及ぼす影響を調べた. この6bpを含む25bpの領域を4個連結したレポーター遺伝子と発現ベクターに組み込んだets 1遺伝子をコントランスフェクションすることにより, ets 1はこのエンハンサー領域に対して転写促進活性を持つことが判明した. 以上の結果はT細胞抗原レセプターα鎖遺伝子の発現制御において, cis-acting elementとしてのTα2と, そこに結合するtrans-acting elementとしてのets 1が中心的な役割を果たしていることを示唆した.
- 1992-04-30