金属の機械的性質とその結晶機構に就て
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概要
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單結晶の曲げ荷重曲線を精細なる荷重装置によつて測定し、その降伏点と結晶方向との関係を求め、曲げ試験の場合も單結晶としての辷りの方向性を現はすこと、並に曲げの場合にはその單純ならざる内力分布のために、却つて普通金属に類似した機械的性質を現はすことを確めた。金属内の個々の結晶粒もこれと同様の状態にあるものと想定し、統計的に見て金属試驗片の変形に際しては辷りを生じ易き方向にある結晶粒より順次に辷りを生じ始めるものと見做した。これに依つて普通金属材料の彈性より可塑性の範囲に至る荷重曲線の説明を再考した。單結晶板を眞空中に於て横振動せしめた場合は同様に結晶の方向性を現はす。即ち、その場合の減衰率は結晶の方向に関係がある。而もその関係を示す函数形が降伏点の場合と同様なることより、減衰を起さしめる内部摩擦の主因は結晶内の辷りにありとした。これは辷り面における動摩擦によつて非可逆的に振動勢力が消耗されるからである。金属試驗片を長時間に亘り繰返し強制振動したとき遂に試驗片が疲労によつて破断するのは、辷り面に相対する原子の互の結合力が繰返し毎に徐々に切断されるに因る。而して1回毎に消耗される非可逆的勢力が大なれは大なる程、早く破断するとした。叙述の順序は1.單結晶板の彎曲荷重線図、2.單結晶板の減衰振動とその内部摩擦、3.金属多結晶粒中に生ずる内部的辷り、4.金属の疲労と内部摩擦、である。
- 1936-02-01