早期自然流産の病態に関する総合的臨床研究
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概要
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妊娠早期における自然流産の病態を解明することを目的として, 26例の自然流産症例について, 超音波断層法による受胎産物 conceptusの経時的形態観察, β-HCGの経時的定量, fluorescein diacetate-propidium iodide (FDA-PI)複合螢光染色による排出された絨毛細胞の viabilityの評価および染色体分析, さらに夫婦間リンパ球混合培養反応抑制試験による血清の遮断抗体活性等の多角的解析を行い, 以下のような成績を得た. 1) 染色体分析に成功した21例中, 13例 (62%)に異常が認められた. 2) 正常妊娠中絶, 稽留流産, および不全流産の絨毛細胞の viability(%)は, それぞれ78.6±5.6(n=7), 42.3±16.2 (n=22), 8.8±4.8 (n=4)であつた. 3) D&C施行直前の胎嚢最大径(D)とD&Cで得られた絨毛重量 (W)との間に有意の一次相関を認め, DによりWが予測しうることが判明した. W=1.30+0.08D (r=0.44, p<0.05). 4) WにV (%)を乗じることにより算出される生存絨毛重量(Wv=W×V)は, D&C直前の血中β-HCG値(H)により予測しうることが判明した. Wv=0.66+0.01H (r=0.77, p<0.01). 5) 3)および4)の成績より, 稽留流産症例のD&C施行で得られる絨毛の viability (V)の予測式が, D&C施行直前における胎嚢最大径 (D)および血中β-HCG (H)を関数とする式として以下のように誘導できた. V=(H+66)/(0.08D+1.30) 6) 予測式により, 稽留流産における経過中の各時点でのVの推移を検討し, Vの低下パターンには漸次低下型と高値持続後急速低下型の2型が存在することが推測できた. 7) 夫婦間リンパ球混合培養反応抑制試験により評価される母体血清のMLR抑制活性(BE(%))すなわち遮断抗体 blocking antibodies活性とV (%)との間に有意の一次相関を認めた. V=34.58+0.31BE (r=0.45, P<0.05). 以上より, 流産の子宮内稽留期間の長短を一次的に支配している要因は, 絨毛細胞の viabilityであり, 絨毛細胞のviabilityは, 胎嚢最大径と血中β-HCG値により予測でき, 約10%前後に低下すると自然排出に向かうことが示唆された. また, 妊婦血清中の遮断抗体活性は, 絨毛のviabilityの高低を左右する要因のひとつであることが推測できた.
- 社団法人日本産科婦人科学会の論文
- 1988-09-01
著者
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