ヒト妊娠早期絨毛の組織培養に関する研究 : 新しい培養方法の応用によるトロホブラストの観察と同定
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概要
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妊娠の成立・維持に重要な役割を果たすトロホブラスト(Tと略す)の機能を解明するため新しい培養方法と細胞同定法を導入した組織培養を行い, Tの細胞生物学的特徴を明らかにせんと試みた.材料はヒト妊娠早期正常絨毛組織片を用い, これを固定ゼラチン膜上に培養し, 細胞の同定は移植組織片を含むvertical sectionにて遊出細胞と移植組織片とのつながりを求めつつ光顕・電顕で観察することにより行い, 更に位相差顕微鏡による生態観察などの形態学的観察を行い, 以下の如き成績を得た.(1)繊毛組織片は培養基質面(ゼラチン膜)に容易に付着し, 従来の培養法では極めて困難であつた迅速・活発なTの遊出が認められた.培養開始翌日から形態学的に均一な主に単核の多数の細胞がdominantな細胞集団として活発に遊出し, 培養2〜3日から多核巨細胞が出現した.(2)vertical sectionによりdominantな細胞は組織片のLanghans細胞, 即ちcytotrophoblast(Cと略す)に由来し, 多核巨細胞は組織片のsyncytiotrophoblast(Sと略す)に由来するものと多核化したLanghans細胞に由来するものとの二種類あることが確認された.(3)Cは極めて活発に遊走し, 互いに十字交叉するなど旺盛な細胞運動を示し, 形態・大きさに著しい多様性が認められた.細胞表面には活発にendocytosisを営む環状皺襞構造が頻繁に出現し, 旺盛な物質摂取機能や環境変化への適応機構を示すものと考えられた.螢光抗体法でhCGはSのはかCのあるものにも局在が認められた.(4)映画記録でCとLanghans細胞由来多核巨細胞との細胞融合を認め, Sの形成がCに由来することがin vitroではじめて確認された.以上, 本研究によりTの培養観察が極めて容易となり, 生体内での機能が可能な限り維持された状態で妊娠早期Tが様々の細胞生物学的特徴をもつことが明らかになり, 更に詳細なTの機能の解明に有用な手がかりを示したものと考える.
- 1981-08-01
著者
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