子宮内膜症における癒着の病態解明に関する研究
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概要
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本研究は,外性子宮内膜症(外性Em)に多く合併する癒着の病態解明を目的とし,さらにそれらの成績から発生機序の推察を試みた.外性Emにおいて,その病巣癒着部と癒着周辺部組織を開腹直後に採取し,光学並びに電子顕微鏡で観察した.また,癒着のない初期病巣表面および偽妊娠・偽閉経療法後の病巣周囲の漿膜も同様に観察した.さらに,同病巣および内性 Em病巣の組織線溶を, plasminogen activator activity (PAA) により検討した.また,チョコレート嚢腫内容液の線溶因子についても検索した.その結果,(1)初期病巣は必ずある深さの漿膜下結合織中にあり,それらの表面は多少の変性を伴った漿膜細胞で被われていた.癒着のある病巣では,癒着部より約5〜6cm離れた部位は光顕では正常漿膜がみられ,走査電顕でも変性のないmicrovilli で被われている正常漿膜細胞が認められた.次に癒着部に近づく(2〜3cm)につれ,漿膜表面のmicrovilli は減少し,不規則な配列を示し,漿膜細胞の一部脱落がみられた.さらに癒着部に近接すると,fibrin網と赤血球が析出し,癒着部では太く絡みあった線維網が観察された.(2)初期病巣表面と病巣近接部の漿膜組織のPAA値は,健常漿膜組織のそれに比して非常に低下していた.内性 Em病巣の PAA値は,正常子宮筋層に比して低値を示しており,Em病巣では組織線溶能が低下していると考えられた.さらにchocolate cyst内容液のPAAはOU.K. u/mgで,FDPは高値を示すものが多くみられ,過去に線溶現象が起り,現在線溶能はないと考えられた. (3)偽妊娠・偽閉経療法後の病巣周囲の漿膜では,表面のmicrovilliが短く細胞自体も平坦な新生漿膜細胞が認められた.(4)以上の病態を総合して外性Emの癒着発生機序を推察すると,漿膜で覆われている初期病巣では癒着は認められないが癒着の準備状態にあり,病巣の増大によって被覆漿膜が破壊されると,病巣や周囲損傷漿膜面からのfibrinogen析出により他の腹膜との膠着が生じ,さらに病巣や周囲漿膜の線溶能低下に基づいて線維化が進行し,強固な癒着が完成すると推察された.一方,ホルモン治療後は病巣と癒着部の縮小がみられ,その周辺部表面には平坦な新生漿膜細胞が認められたことから治療による修復効果と考えられた.
- 社団法人日本産科婦人科学会の論文
- 1980-11-01
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