IUD 装着による障害の基礎的研究 : 時に炎症を中心として
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概要
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IUDの歴史は古く, その障害発生頻度並びに発生情況に関する臨床報告は, 数多くみられる.しかし, それを基礎的に検索した成績は少ない.障害の発生はIUDの材質をポリエチレンリングに限定し, しかも型が同じ場合であつても, 挿入時期, 挿入方法, 装着期間或いは適応の選択によつて異る.今岡の報告ではIUDによる障害を主として炎症の面からとりあげ, 細菌学的, 病理組織学的, 細胞診学的に検索し, 次のような結果を得た.1)子宮内に細菌を検出することはまれであるが, 頚管内細菌は正常対照群にくらべて経膣検査群, 剔出検査群ともに検出頻度が高く, 子宮内感染の危険性はないとはいいきれない.なお, 頚管・子宮内細菌検出率を増加させる因子としては, 出血, 帯下ならびにIUDの子宮内不適合が考えられ, 装着期間による影響は認め難い.2)子宮内膜における組織学的炎症所見の殆んどは, 子宮内膜機能層における軽度の変化であり, 1年未満群と3年以上の群に軽度の浸出性炎症, 退行性変化, 循環障害が多く, 2年以上の群に増殖性変化が多い.なお, 3.5%に扁平上皮化生が認められた.3)組織学的に炎症所見の著明なものでは細胞診学的にも, 腺細胞の核大小不同, 腺細胞質の染色性低下, 変性に由来すると考えられる間質細胞の多形化, 遊走細胞の増加をみることが多い.4)子宮内細菌検出情況と病理組織学的炎症所見とは, 必らずしも一致せず, 従来細菌感染に由来すると考えられていた子宮内膜の炎症性所見の多くは, 感染と無関係なもので, IUDの刺激により局所の組織が多少に拘らず変性, 壊死などの退行性変化, 血管結合織での浸出を主とする循環障害, ひいては組織増殖などの諸反応を示すと考えられ, 細菌感染を伴なわない限り, 子宮内膜の脱落により消失しうる可逆的な変化である.従つてIUD装着の可否は, その挿入時, さらに装着期間における子宮内細菌感染をいかに防止するかにかゝつているといつても過言ではなく, 厳格な適応の選択, 慎重且つ熟練した挿入技術, 徹底した術後管理が極めて重要であるといえる.
- 社団法人日本産科婦人科学会の論文
- 1971-09-01