妊娠性鉄欠乏性貧血に関する研究 : 特に鉄剤投与の効果について
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概要
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妊婦が一般に貧血の傾向にあることは古くからわかつていたが, それは生理的妊娠貧血, 偽貧血, 仮性貧血等と呼ばれあまり問題にされなかつた. 最近, 妊娠時の各種代謝過程が次第に明らかにされ, 妊娠貧血の主体が鉄欠乏性低色素性貧血であることがわかり, 同時に母性保健の見地からも妊娠貧血が重要視されて来た. 私は日大産婦人科外来を受診した主として東京都城北地区, 埼玉県在住の妊婦について, (1)正常妊婦の血液及び肝機能所見, (2)妊娠貧血を来している妊婦に鉄剤を長期投与し, その血液及び肝機能に及ぼす影響について妊娠3ヵ月から10ヵ月まで4週毎に追試し, 次の様な結果を得た. (1)妊娠により妊婦のHb, Ht, 赤血球数, 血清鉄量は4, 5, 6ヵ月まで減少し, 軽度の低色素性鉄欠乏性貧血の状態を呈するが, 程度の軽いものは妊娠後半に初期の状態まで回復する. (2)血清鉄量は正常妊婦, 貧血妊婦とも4ヵ月に一時増加し5ヵ月で再び減少した. (3)網赤血球数は正常妊婦, 貧血妊婦とも妊娠初期から増加傾向を示すが, 正常妊婦の方に1ヵ月早くこの傾向が見られた. (4)白血球数は正常妊婦では9ヵ月まで増加傾向を示し, 貧血妊婦では5ヵ月まで増加傾向, 以後減少傾向を示したが, 全体として増加している. (5)血清総蛋白量は正常妊婦, 貧血妊婦ともに特別の差が見られず, 7ヵ月で最低値を示したが, 正常範囲である. (6)TTTは正常妊婦, 貧血妊婦とも正常範囲で, 妊娠経過に従い軽度上昇傾向を示す. (7)血清総ビリルビン量は正常妊婦, 貧血妊婦とも正常範囲で, 妊娠経過に従い軽度上昇傾向を示す. (8)血清AIP活性値は正常妊婦, 貧血妊婦とも同傾向をとり, 7ヵ月から上昇し, 10ヵ月では約20単位を示した. (9)血清GOT, GPTは正常妊婦, 貧血妊婦とも特別な所見は見られない. (10)妊娠性鉄欠乏性貧血妊婦にオロトンサン鉄内服錠を長期投与し, 貧血の改善がみられたが, 肝機能に特別な変化がなかつた. 以上の所見から, 妊娠により鉄欠乏性貧血の傾向がみられ, 鉄剤が奏効するから, 母性保健上, 妊娠初期から適切な鉄剤の投与によつて, これを予防することが望ましい.
- 1966-03-01
著者
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