子宮頸癌患者におけるグルコース6燐酸脱水素酵素に関する臨床的研究
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概要
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グルコース6燐酸脱水素酵素(以下G-6-PDHと略)は五炭糖燐酸回路の初期段階に位置し, 本酵素と次のグルコン酸6燐酸脱水素酵素の働きによりNADPを補酵素として, グルコース6燐酸は脱炭酸され五炭糖となる. グルコースの代謝課程については従来Embden-Meyerhofの嫌気的解糖系路が研究されており, それは今日古典的解糖系として完成され, 臨床的な面でもそのはたす役割は大きい. 之に反し, 五炭糖燐酸回路(好気的解糖系)についてはその系路の完成されたのは最近であり, その生理的意義について尚不明な点が多い. 近年本回路に於いて生成される五炭糖が核酸の素材となる点が明らかとなり, 増殖する腫瘍組織との関係が注目されているが, 動物腫瘍についての報告を見ると必ずしも好気性解糖系酵素の活性増大について一致していない. 特に人間の腫瘍について, これを系統的に研究報告したものは見られない. 著者は五炭糖燐酸回路活性の指標としてその門戸にあるG-6-PDHを取り上げ, 婦人科領域に於ける子宮癌を中心とし次のような課題について実験を行った. 1. 癌組織に於けるG-6-PDHの生化学的検索. 2. 癌組織に於けるG-6-PDHの組織化学的検索. 3. 子宮癌患者における赤血球G-6一PDH活性の変動. 即ち, 第一の項目に於いて正常組織と癌組織のG-6-PDH活性の相違について生化学的に測定し, 第二に之を補足する意味で酵素の組織の局在分布について組織化学的に之を証明した. G-6-PDHは赤血球内に存在し血清中には殆んど証明されない. そこで第三の項目として赤血球の本酵素活性を測定して, 子宮癌患者を中心にその変動を観察し臨床面での応用について検討した. 成績 : I. 組織G-6-PDHの生化学並びに組織化学的検索により次の如き知見を得た. 1. 子宮腟部上皮及び腟部糜爛組織では生化学的には本酵素の活性は認められない. 然し, 組織化学的には扁平上皮における本酵素活性の局在は明らかであり, 糜爛組織に於いても糜爛腺に明瞭な活性を呈した. 両者の違いは, 局在せるG-6-PDHの活性が余り大きくないこと及び組織化学的に認められる局在部位が極めて限られた部分に証明されたことに基くと推定している. 2. 子宮筋層に於ける活性は極めて低い. 3. 子宮内膜に於ける活性は明瞭に認めることが出来たが, 増殖期, 分泌期画期に於ける活性の消長について今回の実験からは結論は得られなかった. 4. 子宮癌組織では活性の分布の変動が大きいが, 頚癌, 体癌共に本酵素活性は高い。5. 卵巣癌, クルツケンベルグ氏腫瘍, 破壊奇胎について組織化学的にそれぞれ特徴的なG-6-PDH活性を証明した. II. 赤血球G-6-PDH活性の変動を追求して次の知見を得た. 1. 非癌患者の赤血球G-6-PDH活性は平均1.41±0.24(ΔO.D./min/ml)であった. しかるに頚癌患者では平均1.69±0.33(ΔO.D./min/ml)であって明らかに高く, 推計学的にも有意義であった. 但し臨床進行期別には有意の差は認められなかった. 2. 治療経過による変動を見るに, 子宮癌根治手術後には活性はやゝ低下傾向を示す。術後の後照射や, 照射単独の治療によって, 本酵素の活性は強く低下した。又2例の化学療法施行例でも活性の抑制は著明であった。この様な結果から考えて, 子宮癌組織の五炭糖燐酸回路は充進しており, 赤血球内の本回路の活性も子宮頚癌患者の場合には増大しているものと推定した.
- 1965-06-01