新生児無酸素症の研究
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概要
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新生児無酸素症は分娩時の児にとって最も重篤な症状であるのみならず, 更に児の将来の発育や知能にも影響のある病態として産科学上重要な問題であるが, 未だ解期されない点も多い. 著者は先ず娩出直後の児の臍動静脈血酸素量, 臍静脈血pHの相互関係を検討した, 臍静脈血酸素量と臍動脈血酸素量との差は胎盤の酸素化機能や児の酸素消費能力を推定させらると考えられるが, その値, 即ちArteriovenous oxygen differenceは臍静脈血酸素量に比例することを認めた. 捉って児の酸素消費能力を云々するには臍静脈血の酸素量だけを測定すればよいことになる. Arteriovenous oxygen differenceの小さいものは臍静脈血pH値も低いことが多く, 特に重症假死例では7.0以下となることもあるのでpHも便利な示標となる. 更に著者はVan-Slyke検圧法にくらべて測定時間も短く, 又操作も簡単なCuvette oxymeterでも前者と大差のない値が得られることを確めた. そこで本法を用いて152例の新生児の臍静脈血酸素量を測定し, 産科的諸因子と新生児無酸素症との関係を調べた. 正常, 異常を含む新生児152例の平均酸素量は8.96Vol%, 平均酸素飽和度は45.06%である. 更に初産婦から生れた新生児90例の平均酸素量及び酸素飽和度は7.84Vol%, 40.37%であるのに対し, 経産婦から生れた新生児62例のそれは10.58Vol%, 51.88%となり, 両者の間には推計学的に有意の差が認められる. この事は換言すると初産婦の分娩では児に酸素欠乏を招きやすいと云うことであり, 分娩に際しては積極的な予防の必要が示唆される. 新生児假死例の臍静脈血酸素レベルは非假死例のそれに比し有意の低値を示し, 假死での無酸素症がよくうかがえる. ところが假死例の中にも時には酸素量の高いものがあり, このような症例ではしばしば羊水吸引による気道閉塞が存在する. 故に假死とは一概に無酸素症とは云い難く, 正常酸素量を示す場合は酸素の補給よりも気道に注意を払い, その確保が大切である, 臍帯が巻絡していることは児のためには懸念されることであるが, 臍静脈血の酸素を測って見ると殆んど正常値を示した. 予定日超過の有無と児の酸素量との関係を求めるため新生児を40週未満と超過分娩の両群に分けて測定すると後者の臍静脈血酸素量の平均値は前者に比しやゝ低値を示す. ところが妊娠末期各週別の値について相関々係を検討しても低下の傾向は見られないので, 予定日超過と胎盤老化による無酸素症を簡単に結びつけるに足る成績は得られなかった. 生下時体重や分娩所要時間と無酸素症との間には特別著明な関係は見られない. 妊娠中毒症母体から生れた新生児の臍静脈血酸素量はやゝ低値を示す. 又中毒症を4型分類 (小林等) に従って検討すると新生児の臍静脈血酸素量はII型が最も高く, 以下IV型, III型, I型の順で減少して行く. この成績は慢性型中毒症, 換言すると胎盤血管に変化の強いと思われるもの程酸素量の低いことを示し, このような症例での児の死亡や児の未熟が起り易い理由がよくうなづける. 従来羊水混濁は児の胎内俵死の一徴候と考えられて来たが, この研究でも該症例は酸素レベルの低いことを示し, 従来の考え方が妥当なことが本実験から裏付けられた. また双胎分娩の第2児には著るしい低酸素症を証明したが, このことは第2児分娩の際は母体に予め充分な酸素を補給しつつ児を急速遂娩させることが必要なことを示唆する. このように新生児の臍静脈血の酸素量を測定してみると色々な産科的因子が児にどの程度の影響を及ぼしているかゞ客観的に明らかとなり, それに応じた治療の具体的方針が示唆されるので, この方法の産科学的意義は大きい.
- 1964-06-01
著者
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