腟カンジダ症の発症に関する知見補遺
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概要
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真菌症の発症には, 先ず真菌の侵入・増殖という過程が必要であり, 増殖に際しては, その毒力, 菌数, 感染機会の多寡等の諸条件が関与する. しかし, 病原真菌の侵入, 感染下においても, 発症することなく, 単に腐生菌として存在するものもあり, 菌側要因だけでは, その発症機転を説明することは困難である. このような現象は, 弱毒力菌感染において屡ゝ遭遇することであり, 従って真菌症への発展には, 菌側要因のみでなく全身, 局所要因が更に大きく関与していると推測される. われわれ産婦人科領域において検出される真菌は主としてCandidaによって代表される. 私は, 主としてCandida感染症につき, 菌側要因と全身要因との相互関係を解明する目的から, カンジダ症の発症し易い臨床要因を観察すると同時に, Candidaの毒力, 諸条件下の毒力の変換およびCandidaの毒力におよぼす個体諸条件について, 動物実験を行ないカンジダ症の発症への一要因を検索した. 先ず臨床観察において, Candidaの腟内検出率および発症頻度のいずれも, 業態婦, 妊婦, 非妊婦の順に高く, さらに検出菌の同定成績において, Candida albicansが最も高率に証明される事実を認め, 当教室および諸家の成績と略ゝ一致する成績を得ることが出来た. また, 抗生物質, 副腎皮質ホルモン, エストロゲンの全身, 局所投与例についても観察した結果, これ等外的因子により腟内Candida検出率, 発症頻度の上昇が認められた. 次に, Candidaの毒力の各種条件下の変化をしらべ, 病巣由来株の方が非病巣由来株より毒力が強く, 頻回の継代培養により真菌の毒力の低下すること, 動物生体通過を繰り返すと毒力が著しく増強されるのを認めた. 抗生物質投与, 副腎皮質ホルモン投与, X線照射によって, マウスのCandida感染症は増悪され, 死亡率の上昇と死亡迄の日数短縮がみられ, エストロゲン投与でも軽度ながら同様の傾向がみられた. なお組織学的には, 抗生物質投与例より副腎皮質ホルモン投与例で炎症像が激しく, 肉芽, 細胞浸潤像が主病変で, 肝臓, 腎臓の所見が主であった. クロールプロマジン投与では軽度の延命効果が認められ, 飢餓と感染との関係は特別な知見はなかったが, 要するに, カンジダ症の発症は, 単に病原CandidaであるC. albicansの局所侵入によって惹起されることは比較的少なく, 諸条件下におけるCandidaの毒力の増強, 個体の全身, 局所条件の変動, さらにこれを助長する外因子が相俟ってカンジダ症へと発展するものと考えられ, 日常臨床においては, これら諸条件を綿密に観察し, 予防ならびに治療を行なう必要がある.
- 社団法人日本産科婦人科学会の論文
- 1964-05-01