卵膜胎盤及び臍帯の炎症に関する臨床的, 病理組織学的研究
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
近年, 周産期に於る児死亡原因の一つとして子宮内感染に注意が払われている. 私も分娩期に於る羊水感染の病理を解明する目的で連続200例の分娩について卵膜の裂口部, 胎盤辺縁部, 胎盤の中心部, 臍帯の4カ所より組織標本を作製し次の結果を得た. 卵膜, 胎盤, 臍帯のいずれかひとつ, あるいはそれ以上の部位に炎症所見を認めるもの96例(48.0%), 所見を全く認め得ないもの104例(52.0%)であり, 裂口部の卵膜炎82例(41.0%), 胎盤辺縁の卵膜炎74例(37.0%), 胎盤炎50例(25.0%), 臍帯炎20例(10.0%)であつた. 炎症を認めた96例で組織内細菌染色を行い, 43例(44.8%)で組織内にグラム陽性の球菌またはグラム陰性の桿菌を証明し得た. 細菌を認める部位は卵膜裂口部に36例(83.7%), 辺縁部23例(53.5%), 胎盤6例(14.0%)である. 細菌の増殖は線維細胞層に最も多く, 線維細胞層, 脱落膜では細菌がビマン性に無数増殖しているが上皮, 緻密層, 絨毛膜細胞層では散存性に存在するに過ぎない. 卵膜炎では炎症が軽度の場合, 脱落膜に多核白血球浸潤が認められ, 炎症が進行するに従つて多核白血球は羊膜腔に向う. 羊膜の緻密層, 絨毛膜の偽基低膜が白血球浸潤に抵抗性がある. 羊膜の線維細胞層は浮腫状となり, 線維素の析出を見ることもある. 胎盤炎では初期に母体側の多核白血球が游走し, 絨毛膜板下の絨毛間腔に集中する. 炎症が進行すると多核白血球は絨毛膜板に入り, 更に胎児側の血管より多核白血球の游出を見る, 即ち羊水感染に対して母体が先ず反応する. 臍帯炎で特異的なことは臍帯の大血管壁を通じて多核白血球が游出することで, そのすべてに静脈炎を伴ない, 動脈炎は20例中4例(20.0%)に認められたにすぎない. 破水から分娩までの時間が〜60分まででは102例中40例(39.2%), 1〜2時間, 20例中40例(39.2%), 1〜2時間, 20例中10例(50.0%), 2時間以上, 65例中41例(63.1%)に炎症を認め, その内組織に細菌を〜60分, 17例(42.5%), 1〜2時間3例(30.0%), 2時間以上, 20例(48.8%)に認めた. 腟清浄度と炎症の頻度についてみると清浄度I, IIでは炎症が33〜38%であるが, IIIでは75.0%の多きに達した. 以上のことから卵膜, 胎盤, 臍帯の炎症は細菌感染によるものであり, 細菌の感染経路として I)腟から直接羊膜腔へ, II)腟から頚管を経て羊膜と絨毛膜の間を上昇する, III)経脱落膜の三種の上行感染路が考えられる. また妊娠末期には卵膜を通しても細菌は腟から羊膜腔に入り得る. 従つて破水の有無に拘わらず胎児は子宮内感染の危険にされていることになる.
- 社団法人日本産科婦人科学会の論文
- 1964-03-01
著者
関連論文
- 2. 最近3ヵ年における子宮癌集団検診時の細胞診について(第5回総会講演要旨)
- 卵膜胎盤及び臍帯の炎症に関する臨床的, 病理組織学的研究
- 89.卵膜,胎盤,臍帯の炎症に関する臨床的及び病理組織学的観察
- 89.卵膜,胎盤,臍帯の炎症に関する臨床的及び病理組織学的観察