産科的低線維素原血症発生機序に関する研究 : 殊に,羊水中の蛋白分解酵素に関する組織化学的研究
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概要
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産科的低線維素原血症は,子宮内胎児死亡など,或る特定の産科疾患に併発し易い.その理由として,教室の共同研究者達は,子宮内胎児死亡の羊水中に血液凝固冗進作用のある蛋白分解酵素を見出し,これが起因物質となつて血管内血液凝固が起こり易い事を明らかにした.羊水中の蛋白分解酵素の存在に関しては,従来,殆ど検索されていなかつた. そこで,著者は各種の羊水,殊に子宮内胎児死亡における羊水の蛋白分解作用を,fibrinを基質として,溶解の有無を顕微鏡下で観察する組織化学的手段を用いて検討し,次の成績を得た. (1) 正常妊娠の羊水では,妊娠の全経過を通じて蛋白分解能が認められなかつた. (2) 胎児切迫仮死などの如く,胎便によつて汚染した羊水の場合には,胎便の周囲に,fibrinの溶解像を認め,胎使には著明な蛋白分解作用のある事が判つた. (3) 胎児死亡時の浸軟混濁した羊水では,その沈渣中の遊離細胞の周囲にfibrinの溶解像を認めた.即ち,胎児死亡浸軟羊水中には,或る種の遊離細胞から蛋白分解酵素が遊出する事が判つた. (4) この胎児死亡浸軟羊水中の蛋白分解酵素は,線溶系酵素ではなく,他の種類の蛋白分解酵素である事が判つた. (5) 胎児死亡浸軟羊水中の蛋白分解酵素の由来について検索し,胎児組織が自己融解した際の蛋白分解酵素に由来すると考えられた.又,胎児死亡の際,母体から羊膜腔へ滲出するmacrophageなど,遊走細胞に由来する蛋白分解酵素も関与する可能性のある事を動物実験にて確かめた.以上の成績から,胎児切迫仮死では,羊水中に多量の胎便由来の蛋白分解酵素が排出され,これは羊水栓塞症の成因の1つになつているのではないかとの示唆を得ると共に,子宮内胎児死亡では,羊水中に著明な蛋白分解酵素が遊出する事を明らかにし,これが産科的低線維素原血症を発生させる起因物質の1つになつているであろうと推察した.
- 社団法人日本産科婦人科学会の論文
- 1975-01-01