惡性腫瘍と鐵代謝に關する研究
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概要
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1948年,中原・福岡により,肝カタラーゼ抑制作用を特異的とする特殊癌毒素が癌組織より抽出されて,Toxohormoneと稱され,その作用機序として,Toxohormoneが酵素系における鐵の利用障碍を起こすことを推定され,腫瘍毒と鐵の關係が注目されるに到つた. 余はToxohormoneを中心として腫瘍毒と鐵代謝の關係を追究し鐵代謝の面から腫瘍の本態を研究せんと試みた. 鐵の測定法はWong法を應用し,Electric Spectrophotometerを使用して比色定量した. 擔癌體における鐵代謝については,血液,脾,肝鐵の減少を認め,胃,腸管,腎鐵は變化がなく,腫瘍の鐵量は著しく少量である.肝,脾,腎の肥大が認められた. 血液,脾,肝鐵の減少は,腫瘍鐵の少い種類の擔癌體程著しく,腫瘍毒の強さと腫瘍鐵量の間に何等かの關係があることを推定した.この點については,腫瘍Homogenateを正常マウスに注射して血液,肝,脾,注射部の皮下組織等の鐵代謝の變化の研究により,腫瘍毒の強さは含有する腫瘍毒の量的多寡によることを推察した. 腫瘍の移植後の鐵代謝の經過を追究することにより,腫瘍が鐵代謝に及ぼす影響は,腫瘍の發生當初においてむしろ著しく現われることが認められた.中原・福岡の發見したToxohormoneは鐵代謝の面では肝鐵のみを減少せしめることが判明し,更に癌組織の腫瘍毒として,Toxohormoneの如き肝因子の他に血液脾等に作用する廣義の貧血因子が別に存在することを,腫瘍組織のHomogenateを注射して血液,肝,脾,注射部皮下組織の鐵量の變動及び肝,脾の肥大反應等の觀察によつて究明した. 腫瘍毒の作用によつて減少した血液,肝,脾,注射部皮下組織の鐵の行方は,腎,腸管より排泄されることを腎,腸管の鐵代謝の時間的經過の追究によつて判明せしめた. Toxohormoneによる肝鐵減少作用は,Toxohormoneが酵素系から鐵を遊離せしめる如く作用することを,擔癌マウスに長期間鐵劑を投與することによつて,肝鐵の著明に増加を來す機序の解釋として推定した. 鐵代謝の面から蛋白と腫瘍毒の關係を研究し,蛋白投與をした腫瘍のHomogenate注射による血液,肝,脾の鐵代謝の低下を追究する實驗によつて,蛋白投與により腫瘍毒が増量することを推定した. 擔癌體に長期間鐵劑を投與して,鐵代謝の變化を觀察した結果,鐵投與により,血液肝鐵の腫瘍による減少症状が阻止され,腫瘍の外見的増大は抑制出来ないが,腫瘍毒の鐵代謝減少作用を阻止し得るものと考えられた.この場合に脾の態度は鐵に對して全く影響をうけないことを見出した.
- 1955-01-01
著者
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