水出納面よりみた帝王切開児の特異性
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概要
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我が教室では過去10年以上にも亘り, 継続的に新生児の水代謝を, 主として不感蒸泄を中心とした水出納面より追求してきたが, 今回, 帝王切開分娩児をとりあげて, その水出納を不感蒸泄を中心として検討し, 経腟正常分娩児と対比しながら, 帝王切開術ならびに臍帯切断時期の遅速が児に及ぼす影響を明らかにせんとした. なお実験は不感蒸泄量は勿論のこと, 尿量, 水出納値, 呼吸数及び直腸温を測定し, その有機的な連繋をしらべて, 問題の究明につとめた. 実験の結果は次の通りである. I. 不感蒸泄量 : 生直後〜24時間値を平均すると, 帝王切開臍帯早期切断群>帝王切開臍帯搏動停止後切断群>経腟正常分娩臍帯早期切断群>経腟正常分娩臍帯搏動停止後切断群の順である (以下それぞれ, 帝切早期群, 帝切停止群, 経腟早期群, 経腟停止群と略する). 逐日的には各群とも増加傾向を示す. 体重別変化は各群とも体重の大小と不感蒸泄量のそれとは平行的であり, またそれぞれの体重群について, 帝切早期群>帝切停止群>経腟早期群>経腟停止群の順位が成り立つ. II. 尿量 : 24時間平均値は, 帝切群>経腟群, 及び停止群>早期群となり, 逐時推移としては, 生後14時間程度より経腟分娩児では尿量の増加が目立つ. III. 水排泄量及び水出納値 : 生後1〜14時間では帝切児は経腟分娩児に比べて明らかに水排泄量が多い. しかし, その後, 22〜24時間になると, その関係は逆転して経腟分娩児の方が大となる. 水出納値 (生後9〜24時間) は帝切児では負の出納, 経腟児は正の出納を示し, 経腟停止群>経腟早期群>帝切停止群>帝切早期群の順位が認められた. IV. 呼吸数 : 帝切早期群は不安定かつその数も多い. V. 直腸温 : 一般に漸次上昇の傾向を示すが, その度合は帝切群においてやゝ強い. 以上の結果より産道通過という母体外生活への準備期間を経ることなしに急激な出生を余儀なくされた帝切児は, 水分喪失を伴う産道通過という生理的過程を省略したため, 出生後, 急激に経腟正常分娩児に近づこうとする合目的な機序により, 生後直ちに不感蒸泄量を含めた水排泄量が大となる. これは呼吸数の増加という形でも, その不感蒸泄量を増大せしめているものと推定される. かくして分娩機序が児の水代謝に複雑な影響を及ぼして, 娩出後の外界環境への順応態度に相違をきたすことがわかった.
- 1968-09-01