産婦人科領域における真菌の家族内感染様式
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概要
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家族内真菌の相互移行或いは感染様式を明らかにする目的から,感染源として最も大きな意味をもつ腟を中心に検索した. 新生児期において,腟は既に産道感染の影響をうけ比較的高頻度に真菌が検出されるが,このような傾向は一時的なもので,幼児期において検出されることははなはだまれである. 思春期,性成熟期においてはエストロジエン活動の影響をうけて,性生活のないにもかかわらず,真菌の検出率,真菌症発症頻度は急激に増加する.初老期,閉経期,老年期における腟内真菌検出率は性成熟期と比較して大差を認め難いが,菌種別観察においてTorulopsis glabrataの出現率が増加し,発症することは殆んどない.性成熟期においてみられる一連の生理的現象のうち性生活はこの腟内真菌の検出率を増加させ,ひいては発症へと導く大きな因子であり,男子冠状溝内真菌と腟真菌との間には密接な関係がある.妊娠はさらにこの傾向を助長するが,分娩は一時的にせよこの過程をブロツクするようである.またこのようにエストロジエン活動によつて変動する腟内真菌叢は自己自体各部位真菌と相互に移行しあつて自己感染という環の中で温存されており,これに一旦病的因子,たとえば糖尿病等が関与すると,検出率,発症頻度は生理的諸条件下における上限を越えて増加する. 以上家族内構成人員個々の各年令層における生理的,病的諸因子をとりあげ,腟真菌の消長を観察したが,さらにこれら構成人員間の相互移行が存在するか否かを比較的まれにしか検出されない真菌の相互関係,腟内真菌陽性,陰性別家族内真菌の動態から検索し,夫と妻,両親と子供,子供と子供との間に相互移行或いは感染の存在することがまれでないことを知りえた.
- 社団法人日本産科婦人科学会の論文
- 1971-06-01