母児相関よりみた妊娠時の糖質代謝調節に関する酵素学的研究
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概要
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妊娠ラットの糖質代謝調節について, その特異性及び飼育環境の影響を酵素学的な面より検討し, 次の諸点を明らかにした. 1. 妊娠時, 毋体血糖値及び肝グリコーゲン量は減少傾向にあるのに対して, 胎仔肝グリコーゲン量は在胎19日目より著増した. これは後述の酵素活性変動と一致した. 2. 飢餓実験において, 毋体肝グリコーゲンが消失する段階に至つても, なお胎仔ではできるだけ損失しないよう保護されていた. 3. 妊娠時毋体肝において, phosphofructokinase (以下PFKと略す)活性はfructose diphosphatase (FDPase)活性の酵素活性変動と逆の相関パターンを示し, 解糖系の進行に有利な状態, すなわち, インスリン作動下の状態にあつた. 一方, 胎仔肝, 胎盤においては, FDPase活性が毋体肝のそれに比して極めて低値であつたのに対し, PFK活性は毋体肝の2〜3倍にも相当した高活性を有し, 一方的に解糖系のみが亢進し得る態勢にあつた. 4. アミノ酸よりのgluconeogenic key enzymeの1つであるserine dehydrase (SDH)活性も, 妊娠時毋体肝及び胎仔肝において, FDPase活性変動と一致し, やはり糖新生系は抑制された状態にあつた. なお胎仔肝SDH活性において, holoenzymeのapoenzymeに対する度合が毋体肝, 胎盤に比して非常に大であつた. 5. 妊娠時, 毋体肝glucose-6-phosphate dehydrogenase (G-6-PDH)活性は, 妊娠経過にともないglucose-6-phosphatase (G-6-Pase)活性と全く対蹠的に増加し, 五炭糖回路の亢進を示唆し, 脂肪酸生合成過程に必須であるriboseの提供に関与しているものと推定できる. なお, 胎仔肝では, 五炭糖回路はまだ分化を完成していないようである. 6. 毋体肝G-6-P DH, SDR活性の飼料N規制に対する応答性は, 非妊時では両酵素とも, 妊娠時にはSDH活性のみよく応答したが, G-6-P DH活性に関しては, その応答性にみだれを生じていた. しかし, これも妊娠末期には, 比較的よく応答性を示すようになつた. なお, 胎仔肝, 胎盤においては, 何の応答性も示さず一定であつた. 7. 妊娠時, N 2.0%以下の低蛋白質飼育条件下では, 酵素学的にみて, 毋体及び胎仔に異常な影響を及ぼしているものと推察できる. 8. 妊娠20日目が, 毋体と胎仔との相互関連性における, 代謝調節上の転換期にあたることが推察された.
- 社団法人日本産科婦人科学会の論文
- 1971-05-01
著者
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