胎児の蛋白質・アミノ酸代謝に関する研究
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概要
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妊娠時代謝と胎児発育に関する研究の一環として,胎児の蛋白質・アミノ酸代謝についてヒト胎児・胎盤の分析及びラツトの負荷実験等を行ない,次の諸点を明らかにした. 1. 胎児の発育を物質蓄積の面よりみれば,妊娠6ヵ月まではN成分の蓄積がその中心となつており,それ以後にはN以外の固形成分の蓄積が増している. 2. 胎盤のN蓄積量は妊娠月数と共に増して来るが,固形成分中に占めるN含有量は妊娠8ヵ月前後に最高値を示し,10ヵ月に最低となつている.これは胎盤は妊娠末期には絨毛間質の緻密化,血管壁の肥厚,硝子様変性等一連の機能停滞を示す組織学的所見を示すが,その一端を裏書きしている. 3. 胎児のアミノ酸構成は,妊娠月数により著変を示している.これは胎児組織臓器の特異的な発育過程を立証している.さらに各アミノ酸構成の推移及び妊娠月数別全蓄積量からみて,妊娠7〜8ヵ月までは胎児はその発育形成の過程を辿り,それ以後は主として栄養素の蓄積と成熟過程を営むものと推察される.一方胎盤アミノ酸構成は胎児アミノ酸構成と密接な関連性を示しているから,妊娠時期にしたがい胎児の需要に応じた調節を行なつているように思われる. 4. 胎児・胎盤の構成必須アミノ酸パターンは,妊娠各時期においてはほぼ同一の傾向を示しており,胎児の必須アミノ酸必要量パターンを示唆しているものと推察される. 5. 母体の摂取する蛋白質量の如何により,母体・胎児は著明な影響を受けている.即ち高蛋白質栄養により母体・胎児のN蓄積量は増加傾向を示し,低蛋白質栄養ではその逆の結果が得られた.しかしこれを構成アミノ酸の面より検討すると,摂取蛋白質の量よりも,むしろその量比が問題であり,同一のアミノ酸でもその量比により母体・胎児・胎盤への影響には差異が認められる.この場合,胎盤は母体と胎児との間にあつて,母体の摂取栄養の量的あるいは質的変動による胎児への影響を最小限度に止め,栄養面で一定の胎児環境を形成していることが推察された.
- 社団法人日本産科婦人科学会の論文
- 1967-09-01