鉄欠乏性貧血の妊娠ラットにおける母仔の鉄代謝に関する研究
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概要
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新生児の鉄代謝に関する研究は従来余り多くない. 新生児期は胎児期の子宮内低酸素環境から出生後, 新しい環境に順応するため動揺しながら一定の鉄平衡に達する. 従つて, その鉄需要はむしろ減少するといわれている. 私は新生児の鉄代謝が毋体のそれに如何なる影響をうけるか検討し, 新生児の胃, 腸管における鉄吸収と乳汁中への鉄移行機序をしらべた. 即ち, 特製の鉄欠乏食, 鉄添加食および市販の標準固型食餌などでウイスター系非妊娠または妊娠中期ラットを飼育して放射性鉄^<59>Feを用い実験を行い次の成績を得た. 1)鉄欠乏食で飼育した非妊娠ラットは鉄欠乏性貧血を示し, 鉄添加食飼育では鉄充足状態となり, 標準固型食飼育のものはこれらの中間の状態を示した. 2)鉄欠乏食飼育群の産後の鉄飽和度は非妊娠時のそれより著しく低く, 産後3日から7日の血色素量の回復は最も遅い. 鉄添加食飼育群に比し著しい鉄需要を示唆した. また, 鉄添加食飼育群の産後の鉄飽和度は他の2群に比し有意に鉄充足状態を示した. 3)毋体の鉄欠乏または充足は新生仔に大きな影響を与える. 即ち, 鉄欠乏食で飼育した毋ラットの新生仔は生後3日で肝及び脾臓の組織鉄量が極少量となり経口的に減少する. 一方, 鉄添加食群の新生仔は生後3日の肝及び脾臓の組織鉄量は著しく多量であつたが, その後経口的に減少し生後7日では鉄欠乏の仔の生後3日の値に相当した. 4)新生仔の胃, 腸管からの鉄吸収率は生後7日までに60〜70%の高率を示した. 鉄添加食飼育群の新生仔の鉄吸収率は低い. 新生仔においても鉄吸収に調節機構が存在することが示唆された. 5)乳汁への鉄移行は鉄添加食飼育群で大量であり, 毋体の鉄飽和度によつて移行量に差異がある.
- 1970-11-01