精製人胎盤多糖体様物質の抗原性について
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
産科領域で最も重要な疾患である晩期妊娠中毒症は,未だその本態が不明で原因についてはいろいろの仮説がある.中でもアレルギー説は最も注目されている学説であり,加来教授は多くの実験を重ね,人胎盤多糖体様物質によるアレルギー性疾患と想定した.著者はこの説を更に確かめるために,人胎盤多糖体の一元的抗原性と抗原構造を明らかにする目的で,人胎盤多糖体様物質のクロマトグラフィーによる精製分離を試み,その精製画分の抗原性について研究した.実験材料として用いた人胎盤多糖体は,著者等の方法で抽出した標品A及び分画(I)と,秋谷等の方法で抽出した標品Bとでこれ等をもつてそれぞれ家兎に感作し,沈降反応法,Ouchterloney法,免疫電気泳動法で抗体産生を検索した.その成績は次の如くである. 標品A及び標品Bは抗原性を有し,両者に共通な抗原物質が存在する.更に標品Aをカラムクロマトグラフィーで分離すると,糖質含量の最も多い分画(I)は免疫学的にも均一な物質で1本の沈降線を示し,この線が人胎盤多糖体に特異的な沈降線と考えられる.又本物質は免疫電気泳動法で泳動しない事から,電気的に中性な物質と思われる.これらの成績に加えて,DEAE-celluloseカラム法による抗原物質の溶出曲線が交換によらず,吸着によるものであり,しかもヘキソース73.2%で中性多糖体の挙動を示す事実をも考え併せ,得られた抗原物質は中性多糖体を主とする胎盤多糖体様物質で,これが免疫学的にも均一な性状を示すものと判明した.この事は妊娠中毒症を人胎盤多糖体様物質によるアレルギー性疾患とする加来の仮説に更に有力な根拠を与えたものと言える.
- 社団法人日本産科婦人科学会の論文
- 1967-10-01