胎児の嫌気性代謝に関する研究
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概要
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分娩中の胎児の代謝環境を検索する目的で妊娠37週以後の経腟分娩例について, 産婦及び胎児の臍帯動静脈血の分娩直後の血糖値, 焦性ブドー酸, 乳酸の定量を行つた. 正常例に於ては血糖値は母体が胎児よりも高く, 母児間相関も認められ, 胎児の血糖維持に母体が強く関連していると考えられる. 有機酸は胎児が母体より高く, 母児間及び臍帯動静脈間に相関が認められた. しかし, 初産, 経産別並びに分娩時間については血中有機酸量に差は認められなかつた. 又, 正常例でも過剰乳酸の蓄積があり, 分娩時の代謝燥境について考察すると, 正常例に於ても嫌気性解糖系が充進し, これら有機酸の産生は主として胎児に起因すると考えられるが, 母児間に密接な相関が認められる事から胎盤に於ける勾配は比較的少なく, 母体からの影響も無視出来ないと思われる. 一方仮死例では胎児に於ける有機酸は正常例の2倍に増量し更に過剰乳酸は4倍に達した. 即ち仮死例では呼吸障害に基く嫌気性解糖系の著明な亢進がうかがわれる. 又, 従来嫌気性代謝の指標として用いられた, 焦性ブドー酸・乳酸比は特に増加せず, 嫌気性代謝の充進を表わすものとして過剰乳酸量に信頼性がおける. 次に分娩時異常例について有機酸蓄積を来たす要因を胎児側並びに母体側に分けて解析したが, 羊水混濁, 吸引分娩, 高年初産に於て著明な増量が認められた. 又, 分娩時母体に50%ブドー糖及び100%酸素を投与して有機酸の推移を検討したが, いづれも焦性ブドー酸のみが増量して乳酸は変化が少なく, 解糖系全般の機能充進がうかがわれた. 即ち分娩時の母体への酸素投与及び高張ブドー糖投与は胎児の代謝環境の改善に有効であり, 胎児低酸素症の治療に対する一指針を与えるものであろう.
- 社団法人日本産科婦人科学会の論文
- 1966-04-01