腟内乳酸桿菌に関する研究
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概要
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腟桿菌が発表されてから半世紀余を経た今日においてなお性状, 細菌学上の位置づけすら不明確なのは不安定な生物学的性状に頼つた分類に起因すると考え, 血清による確実な同定法を確立する事は, 本菌の臨床的動態を検索する上に重要な問題であるので, 先人の行つた血清学的同定法に改良を加えてみることにした. 因子血清作製のための標準株は不本意ながら生物学的性状により厳選し, 血清の共通抗原は抗体分画法により減退させた. 血清学的同定率は92.0%の安定を示したが, 同定不能の8%が亜型か異型かは今後の研究にまたねばならない. 無差別培養における検出率は61.6%であり, 型別ではII, III, IV, I型の順で高い. なお他細菌との共存率は, 腸球菌, ブドウ球菌, 次いで大腸菌の順である. また腟清浄度が良い程, PH値が低い程検出率は高く, 疾患別でも同様の傾向を認めた. 分娩後の腟桿菌と腸球菌の出現関係では率の上では腸球菌の出現が少し早い様である. 本菌の抗生物質に対する感受性は一般に低く, 腟内投与でも同様の傾向を認めた. また抗生物質投与中の腟内本菌の菌型変化ははげしい. 即ち何らかの因子が加えられると変化し勝ちだが, 加えられない限り殆んど変化しない. 本菌と直腸内嗜酸桿菌は生物学的, 血清学的にほゞ同一視され, 同一例の両菌の菌型の一致率が高い事から腟・直腸間の相互移行が推察される. また本菌とビフィズス菌は異種の乳酸桿菌である. 本菌は無糖培地においては他細菌に対して拮抗作用を示さない. 以上の事からビフィズス菌とは異種の乳酸桿であるが, 直腸内嗜酸桿菌とは同一と考えられる. 従つて腟桿菌なる従来の呼称は不適当で, 腟内乳酸桿菌と呼ぶのが妥当と考える.
- 社団法人日本産科婦人科学会の論文
- 1966-12-01