産婦人科領域のD群レンサ球菌に関する研究
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概要
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抗生物質の普及は感染症の治療を容易にした反面, 耐性菌の出現, 菌交代症, 弱毒性菌の病原性化等のわずらわしい現象を招来する結果となり, 弱毒性菌としてあまりかえりみられなかつたD群レンサ球菌の分野においても, 本菌を起因菌とする胆嚢炎, 心内膜炎, 虫垂炎等の発生が注目され始め, その報告もみられる. 私はたまたま本菌による重症産褥敗血症を経験して以来, 産婦人科領域において単に腟内常在菌としか考えられていなかつたD群レンサ球菌においてもこのような現像が想定され得ると考え, 従来本菌研究の障害とされた亜型が多く出現する生物学的同定法をさけ, 血清学的同定法を導入することにより本研究を行つた. その結果, 本菌を単独起因菌とする尿路感染症の存在を確認し, 菌数10^4/mlをもつて本菌の成立とみなした. また, 尿路感染症の他, 産褥熱, 流産後子宮内感染症において検出される本菌の菌型を対照群と比較検討した結果, 感染群の尿, 血中, 子宮, 腟より分離されたVI, VII, VIII型に起炎性との関連を認めるとともに, 本菌による上記感染症の感染経路を追及して直腸, 大腿内側上部, 外陰部, 腟, 子宮, 尿路における感染経路を知り得た. さらに本菌の毒力を観察する目的からマウスを用いて実験を行い, 病巣由来株は非病巣由来株よりも毒力が強く, 副腎皮質ホルモン投与により死亡率の上昇, 死亡までの日数の短縮がみられ, 組織学的にも心, 肺, 肝, 腎に小膿瘍の形成を認め, グラム染色により本菌の存在を確認した. 本菌の抗生物質に対する感受性は他群のレンサ球菌と異なり, 耐性株が多く, 多重耐性株も多数認められ, 抗生物質を使用した感染症の直腸, 腟における細菌叢の変動を観察した例においてもProteus等と同様に, 菌交代症の菌種として出現する傾向がうかがわれた. 以上の実験成績から, 単に常在菌と考えられていたD群レンサ球菌といえども, 抗生物質, 副腎皮質ホルモン投与等の外的, 内的因子の負荷に伴う共存細菌の急激な変動, 本菌の増殖, 菌型の変動, 耐性株の増加, 耐性度の上昇, 網状内皮系統の貧菌力の低下等, 菌側, 宿主側の諸条件が加わるならば, 異所に侵入して病原性を発揮することも可能であると考えられ, 日常臨床においてこれ等諸条件を観察し, その予防に留意しなければならない.
- 社団法人日本産科婦人科学会の論文
- 1966-10-01
著者
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