ヒト胎児下垂体前葉の細胞学的研究
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概要
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現在ヒト胎児の内分泌機能については母体の内分泌機能と胎盤のそれとが一体となる複雑した機構の存在が推定されるが,これについての知見は乏しく,また胎児の成長その他における成長経違の自律性についても明らかでない.したがつてヒト胎児の発育機構の中心と考えられる下垂体前葉の内分泌機構を発生学的,細胞学的に検討し次の成績をえた. 1) ヒト胎児下垂体前葉は組織発生学的にみると妊娠4ヵ月中頃でその永久構造を完成し,妊娠7ヵ月半ばで成熟新生児とほぼ同様の構造を完成することを確認した. 2) PAS陽性細胞は妊娠8週,CRL15mmから出現する. 3) Gomori CH-P法においてはα細胞は妊娠11週で,β細胞は妊娠8週で出現する. 4) Azan染色では妊娠13〜14週でα,β細胞が染色される. 5) フオスフアターゼ反応のうち,酸フオスフアターゼ反応は妊娠初期の胎児で陽性となり,中期の反応で強陽性を示すが,妊娠10ヵ月でやゝ減弱する.アルカリフオスフアターゼ反応では妊娠初期胎児においては陰性であり,妊娠4ヵ月以降に出現し,以後妊娠月数の増加するにしたがつて増強する傾向を認めた.したがつてヒト胎児前葉は構造的には妊娠4ヵ月半ばで完成するが,内分泌機能は妊娠11週以内に開始し,この時期より次第に胎児成育の自律性の獲得に与すると推定することができる.
- 社団法人日本産科婦人科学会の論文
- 1969-02-01