絨毛膜板血管の形態的、臨床的研究 : 特に新しい一血管型について
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概要
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胎盤絨毛膜板血管は通常動脈が静脈より細い(A<V)が,ときにA=VまたはA>Vのことがあり,また少数ではあるが動脈が極端に細い(A<<V)場合も見られる。それぞれの血管が還流する末梢絨毛を見るとA<Vの部では<毛細血管がよく拡張して絨毛上皮に接し,vasculo-syncytial membrane(VSM)を形成しているが,A≧Vの部では毛細管拡張が不十分でVSMを形成していない部分が多く,かつ間質に結合織増生が見られる。一方A≪Vの部ではやはりVSM形成が不良であるが,間質内結合織増生の傾向は見られなかった。A<Vのみ,又はA<V,A<<Vのみで還流されているものをPVT(胎盤血管型)-I,A>Vの所見なく,A=Vの還流部が50%未満の場合をPVT-II,A>Vの所見なくA=Vの還流部が50%以上の場合,又はA<Vの還流部が50%未満の場合をPVT-III,A>Vの還流部が50%以上の場合をPVT-IV,A<<Vの部のみの場合をPVT-Vと分類し,これら各型と産科臨床所見との関連を検討した結果, 1) PVT-Iは全症例の3/4以上を占めかつ産科異常を伴うことも少ない点から,最も標準的で正常な胎盤血管形態と考えられた。 2) PVT-II,III,IVではほぼこの順に妊娠中毒症,尿中E_3および血中hPL低値例,低Apgar score児などの増加,出生児体重,胎盤重量の減少が見られ,明らかに胎盤機能が順次低下する傾向が窺われた。 3) PVT-VではPVT-Iに比して中毒症合併率,血中hPL値,低Apgar score出現率,胎盤重量には変化がなかったが,出生児体重はやや低下を示し,尿中E_3低値例はPVT-I,II,IIIいずれよりも多かった。また児の心疾患合併率が有意に高かった。 4) 絨毛膜板血管がA≧Vとなるのは絨毛血管拡張不全による血流障害が原因であり,A<<Vの成因はむしろ胎児血管系の発育不全あるいは児の心機能低下にあるものではないかと思われる。
- 1987-09-01