母体グルコース投与による胎児仮死の予防効果 : ラット胎仔における低酸素負荷時の脳瓜ネルギー代謝に及ぼす影響について
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概要
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胎児仮死の予防および治療法の一つとして母体へのグルコース投与が広く行われているが,一方では胎児の乳酸アシドーシスや乳酸の蓄積による脳障害の危険性が指摘されているため,Wistar系ラット胎仔を用い,その有用性と危険性について検討した.妊娠21日のラットに20%グルコース3mlを投与した後,子宮に出入りする血管を結紮し,20分間の子宮内hypoxiaをおこした.その後,子宮切開により娩出し,蘇生60分までの胎仔,新生仔の血中グルコース,乳酸,脳内グルコース,乳酸,アデニンヌクレオチドを測定し,非投与群と比較検討した.血中および脳内グルコース濃度はグルコース投与により増加し,低酸素負荷により血中グルコースはさらに増加した.脳内グルコース濃度は低酸素負荷により減少したが,グルコース投与群は3.80±1.32μmole/g.w.w.と高値を維持した.血中乳酸はグルコース投与群は非投与群の1.2倍の濃度を示し,低酸素負荷により非投与群では2.1倍,投与群では1.9倍にそれぞれ増加した.脳内乳酸も投与群は非投与群の1.3倍の濃度であったが低酸素負荷により非投与群は2.3倍,投与群は2.0倍の12.21±1.33μmole/g.w.w.となった.脳内ATPは低酸素負荷により非投与群では70%も減少したのに対し,投与群は21%の減少に留まった.脳エネルギー水準をenergy charge potential[(ATP)+0.5(ADP)]/[(ATP)+(ADP)+(AMP)]で見ると,低酸素負荷により両群とも低下したが,グルコース投与群では0.59と非投与群の0.37に比べ高値を示した.このように分娩前にグルコースを母体に投与することにより胎児がhypoxiaになっても,脳のエネルギー源であるグルコースの低下が少なく,また脳ATPやエネルギーバランスを示すenergy charge potentialの減少も軽度であることからグルコース投与の有効性が認められた.また脳への乳酸蓄積は懸念されるほど多くはないと考えられる.
- 1987-03-01
著者
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