重症男性不妊症における透明帯開口術の有用性に関する基礎的ならびに臨床的検討
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
重症男性不妊症例に対する透明帯開口術(partial zona dissection, PZD)の有用性を知るために, マウス体外受精実験系を用いて基礎検討を行い, 次に臨床応用を試みた. B6C3F1幼若雌マウスを過排卵処理して未受精卵を採取し, 卵丘細胞を除去したのち, PZDを施行し媒精に供した. PZDを施行しなかった卵を対照とした. 媒精用精子は同系成熟雄マウスより採取し, 100×10^4/ml, 10×10^4/mlおよび乏精子症を想定した低媒精濃度1×10^4/mlの精子濃度に調整した. PZD施行卵における前核期での受精率, 2細胞胚および胚盤胞への発生率, 胚の蛋白合成能を対照と比較検討した. 多精子受精についても合わせて検討した. 低媒精濃度1×10^4/mlにおける受精率ならびに2細胞胚への発生率はPZD施行卵で有意に高かった(p<0.01, p<0.001). また, 2細胞胚から胚盤胞への発生率, 2細胞胚および胚盤胞の^3H-ロイシンの取り込みは対照と差を認めなかった. 低媒精濃度においては多精子受精を認めなかったが, 媒精濃度100×10^4/mlではPZD施行卵において多精子受精率は有意に高くなった(p<0.05). これらマウス体外受精実験系での成績より, 低媒精濃度におけるPZDの有用性が示唆された. 通常の体外受精でほ受精の起こらない乏精子・精子無力症13症例16周期と受精障害3症例5周期を対象にPZDを施行した. 乏精子・精子無力症例では17.8%, 受精障害例では26.3%に受精を認め, PZDは受精率を有意に改善した(p<0.001, p<0.01). しかしながら, 乏精子・精子無力症例で15.4%, 受精障害例では40.0%に多精子受精を認めた. 10症例において胚移植が可能であったが, 妊娠はbiochemical Pregnancy 1例であった.以上の成績より,重症男性不妊に対するPZDの有用性が示唆された. しかしながら, 顕微授精におけるPZDの評価については, 今後症例を重ねたうえでの検討が必要である.
- 1994-05-01