教育心理学研究における統計的検定の検定力
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概要
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日本でなされている教育心理学の研究では, 統計的検定によって有意な結果が得られる確率(検定力)はどのくらいであろうか。本研究では, 1992年から1996年までに発行された『教育心理学研究』に掲載されている論文で用いられている検定について調査し, ある特定の大きさの母集団効果量(小・中・大)が存在するときに, その研究で用いられた大きさの標本によって有意な結果が得られる確率を求めた。その結果, 対象となった論文の60%は中効果量を検出できる確率さえ.8にも満たないことがわかった。実験的方法を用いることが多い認知的側面を扱った研究は, 調査による研究を行うことの多い情緒的側面を扱った研究に比べて, 同一の母集団効果量に対する検定力が低くなっていた。また, 帰無仮説を研究仮説とした場合は, 特に高い検定力が必要であるにもかかわらず, 有意でない結果をもって仮説を支持できるほど検定力が高いとはいえなかった。また, 標本効果量を算出し, Cohen(1992)の効果量の基準の見直しを試みた。一部基準が不適切であるようにも考えられるものがみられたり, 研究領域や研究方法によって異なった基準を用いるべきであることを示唆する結果が得られたが, この点に関しては今後更なる検討が必要である。さらに, 標本効果量と標本の大きさの関係について分析した結果, 研究者は検定力を明確に意識こそしていないが, 効果量の小さいものに対しては標本を大きくして検定力を高めていることが示唆された。検定力は日本ではほとんど問題とされてこなかったが, 統計的検定が分析の中心となっている以上, もっと検定力に目をむけていかなければならない。
- 1999-06-30