大衆社会の価値観に関する社会心理学的研究:I : 職業観をとおして
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
(1)大衆社会といわれる今日の社会状況では,大衆社会的職業観の浸透が著しい。この職業観は,個人を社会状況に「適応」させるけれども,個人が職業をとおして社会を変革するという意味での,職業の社会的意義をまったく無視している職業観である。しかも,中学校の進路指導では,大衆社会的職業観を,問題の多い適性概念によって,むしろ積極的にうえつけようとしている。(2)本研究では,各階層の中学生のもっている職業観を質問紙調査法により明らかにしようと試みた。調査対象の中学3年生を,親の職業を指標として階層I II IIIに分類した。(3)その結果,第1には,中学生の職業選択の基準には階層差がみられず,その基準としては,大衆社会的職業観に基づいた基準があげられていることが明らかになった。たとえば,選択基準としては,適しているか好きか,やりがいがあるか,収入が多いか,収入が安定しているか,などがあげられているか,また,なりたい職業と,収入の多さ,地位の高さ,スマートさ,らくな程度,とは相関が高い。(4)第2には,中学生の学歴志望と職業志望には,階層差があり,また,将来の生活のイメージにも,階層差の傾向がみられた。しかし,自己の選択職業の評価に階層差はみられなかった。(5)さらにいくつかの事例研究により,中学生の社会状況に対する姿勢を,状況へむしろ積極的に「適応」しようとするタイプから,状況に対決していく志向もったタイプまでの,いくつかのタイプに類型化した。(6)以上の結果から,中学生は,現実には,状況へ「適応」せざるえないために,大衆社会的職業観によって,むしろ積極的に状況に「適応」しようとする構えをもっているといえよう。
- 日本教育心理学会の論文
- 1963-10-30
著者
関連論文
- 511 中学生の職業観についての社会心理学的研究(13.社会・文化(2),日本教育心理学会第5回総会部門別研究発表要旨・討論の概要)
- 508,509 親子関係における階層差(4)(5) : 幼児期の発達課題達成への母親の働きかけの階層差(13.社会・文化(2),日本教育心理学会第5回総会部門別研究発表要旨・討論の概要)
- 大衆社会の価値観に関する社会心理学的研究:I : 職業観をとおして