変動する大学教官市場
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概要
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日本の学者は一般に裕福でない。相対的に言って今日の学者は三〇年前の先輩たちよりずっと貧乏である。そしてこの経済的障害が新しい意味をもってきている。移動にまつわる社会的障害は取り払われつつあるのにもかかわらず、経済的障害は大きく、移動率そのものにはそんなにきわだった変動がない。 日本の学者はかつての日本的労働市場で慟いているのでなく、研究者市場に日本的側面がみられる。永年雇用制は強固になっており「限られた義務」の規範を重んじる学者たちも雇われている大学に少くとも五年間は留まろうとする。しかし雇用者に対し無制限の義務を感じる学者はいない。はじめに述べたように、少し逸脱した社会化のゆえに日本の学者は自律的性格をもっているようである。彼は研究の達成をもっとも重視し、研究がしやすいか否かという点で職場を考えるようである。 このような志向は多くの学者の間に職場不満と移動意欲を生み出すことになる。しかし普通の教官は市場のいたずらのために、移動の可能性をはっきり意識していない。伝統的な障害は衰退したが、まだ他の障害ががんとして立ちはだかっている。その最大なものは経済的障害である。この障害は単に、教官の大学間移動を妨げるだけではない。それは、大学と大学以外の職場との間の交流、研究の国際的流動を妨げる高い障壁となっている。ボス支配に代わって、経済的窮乏が、大学教官市場の閉鎖性を維持する大きな条件となってきているといえよう。
- 日本教育社会学会の論文
- 1971-10-15