ナヴァカマティとしてのカストム : ヴァヌアツ・トンゴア島民におけるカストムの様相(<特集>カストム論再考 : 文化の政治学を越えて)
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
カストムに関する議論において言及される頻度の高いものに、「伝統の創造」論の枠組みによってカストムを分析したキージングの研究と、それに対するハワイ先住民の活動家で研究者でもあるトラスクの批判を挙げることができる。これらの議論は人類学者と現地社会の関係性を考える際の参照点の一つとなってきたが、そのなかでトラスクの主張は文化を語る権利をめぐって提起されたものとして位置づけられてきた。しかし、トラスクの例とは異なるカストムにまつわる問題を現地社会の人々の視点から理解しようとする場合、それを早急に文化を語る権利をめぐる問題として位置づけることには十分慎重であるべきだろう。本稿はこの点について、ヴァヌアツ・トンゴア島民の間におけるカストムの様相を明らかにすることを通して考察を行ったものである。本稿の前半部では、従来のオセアニアの伝統概念に関する研究においてビスラマ語のカストムと一括して扱われることのあったフィジー語のヴァカヴァヌアやサモア語のファアサモアとの比較を導入とし、それらと語義的に共通の構造をもち、指示対象においてカストムと重なる部分をもつアエラン・スタエルというビスラマ語概念と関連させながら、トンゴア島民の間におけるカストムの輪郭を浮き彫りにしようとした。また、それを踏まえて後半部では、トンゴア島民が日常的に使うナマクラ語においてカストムに対応するものと位置づけられているナヴァカマティという概念に焦点を当て、検討を行った。そして、伝統的な事象に関する知識としてのナヴァカマティにおける保有物の如き側面を念頭に置くならば、人類学者とトンゴア島民の間に生じ得るカストムにまつわる葛藤は、文化を語る権利をめぐるものとして捉えるだけでは不十分であり、むしろまずカストムという語で指示される対象の保有にまつわる問題として理解する必要があることを指摘した。
- 2001-09-30
著者
関連論文
- ナヴァカマティとしてのカストム : ヴァヌアツ・トンゴア島民におけるカストムの様相(カストム論再考 : 文化の政治学を越えて)
- 日本のテレビ番組におけるメラネシア表象(マスメディア・人類学・異文化表象)
- 山本真鳥・須藤健一・吉田集而編, 『JCAS連携研究成果報告6-オセアニアの国家統合と地域主義』, 大阪, 国立民族学博物館・地域研究企画交流センター(JCAS), 2003年12月, 386頁, 非売品
- カストムにおける所有的側面--ヴァヌアツ・トンゴア島民の事例を中心に
- ヴァヌアツにおける呪いと福音 : 長老派教会の福音伝道運動をめぐって