故郷で養育される移住者の子供達 : フィリピンからイタリアへの移住における家族ネットワーク
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概要
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本稿では、フィリピン、ルソン島北西部イロコス地方のイロカノの1村落から、1980年前後より急速に拡大してきているイタリアへの移住を題材として、現在のフィリピンからの大量の移住者の流出と、移住後の出身地社会の親族との関係保持という現象を描き出すことを試みる。具体的には、イタリアにおける夫婦単位の就労と子育ての両立が困難である状況において、多くの移住者が子供を出身地に送り返し/残し、出身地に残る移住者の近親者が送金を受けつつ子供を養育するという国境を越えた近親者間の協力関係に焦点を絞る。そしてそこにみられる養親と移住者の子供達、養親と移住者の関係の諸相を、村落における家族関係の枠組みとの関連で考察する。調査事例の記述分析から、人々が既存の子供の養育の枠組みを適用することによって、イタリアへの移住の拡大・継続という新たな状況に適応してきた一方で、そのような国境を越えた協力関係の形成維持は、近親者間の緊張が生じる、あるいは顕在化する契機ともなりうる不安定な側面も持つという点が明らかにされる。こうした記述分析を通して、現代世界における人の移動の活発化に伴う国境を越えたネットワークの形成という現象への一視角が示される。
- 2001-06-30
著者
関連論文
- 故郷で養育される移住者の子供達 : フィリピンからイタリアへの移住における家族ネットワーク
- 川田牧人著, 『祈りと祀りの日常知-フィリピン・ビサヤ地方バンタヤン島民族誌』, 福岡, 九州大学出版会, 2003年, 333頁, 7,500円(+税)