「群れ単位の家畜化」説 : 西アジア考古学との照合(<特集><家畜化の過程>への新視角)
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概要
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今西錦司・梅棹忠夫がそれぞれ独立して提唱した「遊動的狩猟民による, 群れの遊動域内での, 群れごとの家畜化」説は, 我が国の人類学・民族学が生んだ独創的な牧畜起源論である。本稿の目的は, 西アジアにおけるヤギ・ヒツジの家畜化過程に同説が適用可能かどうかを, 近年の考古学データとの照合を通して再検討することにある。ところで, この種の議論には「初期遊牧民の考古学的不可視性archaeological invisibility」という根本的疑義がつきまとう。この点に応えるため, 本稿では, 家畜化過程の動向全般をより包括的な枠組みの中で追尾するよう努めた。すなわち, 定住的農耕集落のデータだけではなく, 遊動的狩猟民あるいは初期牧畜民の短期小型キャンプのデータをも渉猟し, この両者の対比の中で今西・梅棹説の成否を検討した。その結果, 1)遊動的狩猟民のキャンプサイトにおける家畜化痕跡は, 定住的農耕集落におけるそれよりも約1000年以上遅れて認められる, 2)従って今西・梅棹説は, 少なくとも西アジアのヤギ・ヒツジ家畜化過程には適用できない-この二点が明らかになった。西アジアにおけるヤギ・ヒツジの家畜化は, 「定住的農耕狩猟民による, 集落を舞台とした, (追い込み猟によって切り取られた)群れの一部を単位とする, 家畜化」であったように思われる。
- 日本文化人類学会の論文
- 1999-06-30