西シベリア・ギダン・ネネツの食文化 : 現代極北トナカイ飼養民の食の文化的・社会的解釈(<特集>シベリア研究の課題と現在)
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
少数民族としての現代極北先住民の生存と周辺文化・社会との共存という問題は, 様々な分野において今後一層の調査・研究がなされるべきテーマであろう。特にロシアのシベリア・極北部の先住民は, 国内の社会・経済分野の変革の中で, 自民族文化の復興や再解釈・再評価, 市場経済システムや周辺社会への再適応という状況下にあり, 多面的な人類学的調査が求められているのではないだろうか。食は, これらの住民にとりその生存に係わる重要な問題であるとともに, 自民族文化の伝統と周辺社会への適応という側面に係わる文化的・社会的な領域の問題でもある。本稿はこのような視点から, ユーラシア大陸の極北地域の先住民で, 周年遊牧生活を送るトナカイ飼養ネネツの孤立的民族集団に焦点を当て, 極北先住民の文化的・社会的理解の原点の一つともいえるその食文化について現地調査をもとに考察したものである。具体的には, まず西シベリアのツンドラ地域のトナカイ飼養民にとっての主食とは何かという問を設定し, トナカイの肉=主食というステレオタイプを修正し食の複合性を指摘する。続いて具体的な食材とその利用法につき概観し, ツンドラ・ネネツの食の歴史的・文化的な文脈における解釈を試みる。そして, 食の社会的機能と現代の周縁部に居住する小規模民族集団に共通する現象としての社会適応と食の問題を概観し, 現代のネネツにとっての食文化の意義について考察する。
- 日本文化人類学会の論文
- 1998-06-30