「文化」をめぐる戦略と操作の相克 : キューバ・サンテリーアの儀礼太鼓バタを中心として
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概要
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民衆の復権を謳うキューバ革命政権は, 抑圧されてきた人民の表現として, アフリカ系カルトの儀礼音楽・舞踊に注目し, その舞台化に力を入れている。しかし, その舞台化は, アフリカ系カルトそのものを尊重するがゆえに実施されているのではない。政権は儀礼音楽・舞踊をカルトという従来のコンテクストから切り離し, 政権のイデオロギーにふさわしい「文化」として提示しようと試みているのである。このような脱コンテクスト化の戦略は, 革命政権によって始められたのではなく, すでに革命以前の芸術家や民族学者たちによっても試みられていた。しかし, 革命政権は, 舞台化と並行して, カルトそのものの衰退を意図した政策を実施することで, より徹底した脱コンテクスト化を展開している。キューバのアフリカ系カルトの一つであるサンテリーアの信者たちは, このような脱コンテクスト化戦略の対象となってきた。しかし, 彼らは政権の戦略になされるがままでいるのではない。信者たちは, 政権が「文化」として提示する要素をサンテリーアの実践に取り入れ, 柔軟に状況に応じているばかりか, サンテリーアを説明する際にあえて「文化」という言葉を用いることで, 自分たちが実践しているのは政権が称揚する「文化」であることを印象づけている。彼らはこのように「文化」を操作することによって, キューバ社会の中に自らを位置付けながら, 信仰を継続しているのである。本稿は, サンテリーアの儀礼太鼓バタを具体的分析の対象とすることで, 「文化」をめぐる革命政権とサンテリーア信者たちとの相克を浮かび上がらせる。
著者
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