土器製作者の誕生 : カンカナイ社会における技術の伝習と実践
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概要
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ホモ・サピエンスという一つの生物種でありながら, 人間には, 特定の社会・文化の構成員のみに固有な行動が数多く認められる。こうした行動は, 社会的・文化的所産として捉えられ, これまで様々な民族誌的な調査・研究が展開されてきた。しかしこの反面, 人間の行動には, 可視化・発話化されがたいがゆえに, 民族誌的な調査・研究にとって容易に踏み込めない領域が存在する。本稿は, こうした人間行動の可視化・発話化されがたい領域へのアプローチと, その形成と実践にかかわる社会的・文化的背景の読み解きを, 射程に入れた民族誌的研究を試みるものである。このような射程から, 本稿では, フィリピン・ルソン島北部山岳地帯に居住するカンカナイ(Kankana-ey)の人々による土器作りを対象とし, まずそこで駆使されている暗黙的で感覚的な知識とそれを実現しうる身体化された技能を捉え記述する。そしてそのうえで, そのような知識と技能を含めた, 土器作りの習得過程と伝承形態が, カンカナイ社会の日々の営みに埋め込まれたものであり, かつ, こうした伝習と土器作りの実践が, カンカナイ社会においてジェンダーを再生産する役割を担うものであるということを提示する。
- 日本文化人類学会の論文