主体性の解釈 : フランスにおける失業者のアンセルシオンの実践から(<特集>危機に瀕した人格)
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概要
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フランスでは、80年代後半から、長期失業によって社会から排除された人々に対して金銭的な援助を与えると同時に、その社会復帰を積極的に支援しようとする動きが盛んになった。これは一般に、社会的職業的な「アンセルシオン=組み込み(insertion)」と呼ばれる。このプロセスにおいて、失業者はソーシャルワーカーの援助を受けつつ社会復帰のための計画を練り、社会へとみずからを「組み込む」ことを目標として長期間にわたりさまざまな活動を行なう。本稿は、「人格」の人類学の観点から、このアンセルシオンのプロセスにおいて、援助される失業者の「人格」を援助者達がどのように解釈するかに焦点を当て、分析を行なう。そこで明らかになるのは、失業者はイデオロギー上、契約する主体とみなされるにもかかわらず、実際には自己の自律性に欠陥を持った存在と見なされるという点である。援助者たちのあいだには失業者を「雇用可能性」の欠陥によって分類し、欠陥を修復することによって彼らを雇用へと導こうとする図式が存在する。このプロセスにおいては、失業者の逸脱的な行為は、主体的意図の表明としてではなく、人格の混乱として解釈される。筆者は、このような解釈枠組の移行を意図-行為ゲームから原因-行為ゲームへの転換と理解し、アンセルシオンの現場をそのような転換の装置として分析した。しかし、このような転換はあらかじめ決定されたプロセスではなく、状況に応じて組み立てられていくものであることを指摘した。
- 2002-06-30