断片聴覚とワントク・イデオロギー : パプアニューギニアのグラスルーツによるギターバンド音楽の受容と実践
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
本論では、固有言語の同一性に基づいて想像される「ワントク」の関係を自己認識の基盤においているパプアニューギニア(PNG)の「グラスルーツ」に焦点を当て、近年主要な文化表現の様式となっているギターバンド音楽について、特に多言語で歌われるダンス歌謡の受容とPNGの民衆意識との関係について考察する。野外で催されるダンスコンサートでのグラスルーツの反応は一見散漫なように見えるが、FMラジオ番組やカセットアルバムの形でほぼ全国的に出回っている国産の「ロコル」歌謡に人気が集中している。大半のロコル歌謡の歌詞は固有語で歌われており、ピジン語と英語は断片的に用いられている。しかし、このような歌詞の内容を十全に理解できないはずにも関わらず、異なる固有語を持つ大多数の聴衆はロコル歌謡を「PNGの音楽」として肯定的に聴取している。そこで、この認識作用をモデル化するために「断片聴覚」と「ワントク・イデオロギー」を考えた。断片聴覚とは、歌詞のメッセージの十全な理解よりも、歌詞の文脈が断ち切られて生じる「呼びかけ」の喚起力に反応する聴取のあり方である。ワントク・イデオロギーは、呼びかけを感受し、PNG住民として自分と同じような生活世界を分かち合うグラスルーツの主体として想像するための概念装置である。このふたつの認識作用によって、ロコル歌謡がグラスルーツによるグラスルーツのための様式として形作られているのである。
- 2001-12-30
著者
関連論文
- 断片聴覚とワントク・イデオロギー : パプアニューギニアのグラスルーツによるギターバンド音楽の受容と実践
- 音楽パフォーマンスの場に生起する暴力 : パプアニューギニアの事例から(横田禎昭教授退職記念特集)
- Arjun Appadurai, Modernity at Large : Cultural Dimensions of Globalization, Minneappolis, The University of Minnesota Press, 1996, 229頁, アルジュン・アパドゥライ著『未捕捉の近代 : グローバリゼーションの文化的次元』
- 「石見神楽」 : 民俗芸能の現在進行形として
- 柔軟な上演空間 : パプアニューギニア伝統舞踊の共同性の構築