カレン族における周縁の力と宗教・社会変動 : 十九世紀ビルマから今日のタイまで
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概要
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本稿は, 歴史や伝承を通してカレン文化に見られる「周縁の力」による新しい秩序の形成というパターンを指摘し, それがカレン族の宗教変化, 特に19世紀以来のカルトや今日に至るまでの仏教受容の背景にあることを考察する。一般に, 大陸部東南アジアの山地社会の儀礼体系は, 共同体に豊饒をもたらし儀礼の主催者に儀礼的力と社会的地位をもたらす勲功祭宴によって特徴づけられ, 平地の上座部仏教社会との相違が強調されてきた。しかし, 山地社会でありながら平地との接触の長い歴史をもつカレン族は, 山地社会の儀礼的特徴を持つと同時に, それと対置される儀礼領域と力の概念をも示している。そして伝承や歴史を通して, 共同体の自律的秩序や豊饒が危機に陥るとこの力が発揮され, 新しい秩序を形成することが期待される。こうした力の概念と期待は, 平地民との接触の中で民族意識を維持する過程で形成されたものであり, 同地域の上座部仏教社会の千年王国運動に触発されたカレン族のカルトや仏教受容の端緒となった。
- 1992-12-30