注射器接種法によるイネもみ枯細菌病に対するイネ品種の抵抗性の評価
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概要
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イネもみ枯細菌(Psedomonas glanas Kurita etTabei)病は1955年に初発生が確認された病害であり,次第にその被害は拡大し,現在では西南暖地における重要病害の一つになった.本病に対する品種抵抗性の検定は,1983年の全国的な大発生以来噴霧接種法によって行われてきたが,年次変動が大きいことから本病に対する抵抗性の品種間差は遺伝的なものではないと言及されてきた.本研究はイネもみ枯細菌病に対する品種抵抗性の圃場での人工接種による検定法を確立し,抵抗性の遺伝的な品種間差を明らかにするために行った.品種抵抗性の検定は佐賀大学農学部圃場において1987.1988年の2年,日本イネ75品種及び外国イネ54品種を供試し,注射器接種法を新しく採用することによって行った.注射器による接種は,出穂直前の穂孕期の止葉葉鞘内に1種あたりO.2mlの接種源を注入した.品種抵抗性の判別は,接種後2週目に圃場観察による穂別病斑指数及び採種後の室内観察による籾個別病斑指数によって行った.異なる両病斑指数間には高い正の相関関係(0,847)がみられた(第5図).籾個別病斑指数に基づく品種抵抗性には,年次間差,品種間差及び両者の相互作用においてそれぞれ1%水準での有意性がみられ(第ユ表),品種抵抗性の両年次間の相関係数はO.474となり1%水準で有意であった(第7図).両年次を通して安定して強あるいは弱抵抗性を示した品種を日本イネ及び外国イネでそれぞれ6品種を示した(第2表).注射器接種法によるイネもみ枯細菌病に対するイネ品種の抵抗性は,2年次の平均値で1%水準での有意差はみられたが,両年次間の病斑指数の相関係数はそれほど高くはなかった.この理由については,1988年の出穂期が前年に比べて全体的に約1週間早かったことから,基本的には両年次の気象条件の差によるものと考えられる(第8図).具体的には,1988年では8月24日から9月2日に出穂した品種の籾個別病斑指数は相対的に高くなり,8月24日以前あるいは9月6日以降に出穂したものの指数は低くなる傾向がみられたが,1987年には出穂期との明確な関係はみられなかった.品種抵抗性の年次変動を大きくした要因として,1987年に中庸の抵抗性を示した品種が!988年に罹病性から抵抗性まで幅広く分布したことが挙げられる(第7図).品種の抵抗性あるいは罹病性が両年次で安定していたものは,1987年の籾個別病斑指数が3.O(外国品種)から3.5(日本品種)以下あるいは5.O(外国品種)から6.O(日本品種)以上の指数を示した品種で,これらの品種は1988年にもそれぞれ同様に抵抗性あるいは罹病性を示した.このように,本病の進展度は出穂期の外部環境の影響を受けやすい傾向がみられるがラ品種抵抗性が強弱の両極端のものは明らかに遺伝的な差によるものと考えられる.本実験で採用した注射器接種法の利点としては次のことが挙げられる.1)接種源を出穂直前の穂孕期の止葉葉鞘内に注入することで,病原菌を接種後の半日は高湿度の安定した環境条件下に置くことができる,2)短期間に多くの個体に接種を必要とする耐病性育種には,従来の噴霧接種法では多量の接種源が必要となるが,接種蔵量が1穏当たりO.2m1の注射器接種法では接種源の確保は容易である,3)接種穂が明確にマークされる注射器接種法では,自然感染穂との判別および病理指数の判読が容易であり,しかも正確に迅速に抵抗性の判別ができる,4)注射器接種法では,接種に際して隣接の圃場に病原菌を飛散させることがない.
- 日本育種学会の論文
- 1994-03-01