スーパークラウドクラスターの階層的な組織化のメカニズム : WISHE、対流により励起される重力波、コールドプールの重要性
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
熱帯のスーパークラウドクラスター(SCC)のもつ対流の階層構造の形成・維持のメカニズムの本質を明らかにするために、個々の積雲対流を解像できる2次元非静力学モデル(Yamasaki,1984)を用いて数値実験を行った。得られたSCCは、3-6ms^<-1>の現実的な位相速度で東進し、以下のような特徴的な時空間スケールをもつ対流の階層を含む。すなわち、小さなスケールからみると、「積雲対流」が集団化して、O(10km)の空間スケール、3-12時間の時間スケールをもつ「メソスケール対流(MC)」へ、MCが集団化して、O(100km)の空間スケール、0.5-2日の時間スケールをもつ「クラウドクラスター(CC)」へ、CCが集団化して1,000-1,500kmの空間スケール、3-4日の時間スケールをもつ「大きなクラウドクラスター(LCC)」へ、そして、LCCの集団として総観スケール(数千km)のSCCが形成され、SCCの階層構造を再現することができた。SCC全体としての東進に対して、Emanuel(1987)らが示唆したWISHE(地表東風の存在)が重要である。すなわち、下層の一般風が東風という状況下で、対流の持続による下層風の強化が対流の東側で海面からの蒸発を促進し下層を湿らせることにより、新たな対流が東側で起こりやすい状況が維持される。この場合、新たな対流を励起するメカニズムとして、SCCの議論では従来ほとんど注目されながった対流の励起する小規模(水平スケール10-100kmのオーダー)かつ10-20ms^<-1>程度の位相速度をもつ重力波が重要であることが分かった。その役割は次のとおりである。下層が十分湿潤な状況下で、重力波に伴う上昇流は凝結・下層雲の形成をもたらし、遅れて伝播してくる重力波の上昇流に伴う力学的な効果や断熱冷却による雲の周囲の冷却(不安定化)によって下層雲は高い対流に成長する。このメカニズムにより、MCはCCへ、CCはLCCへ、LCCはSCCへ組織化される。これらの階層のうち、メソスケール対流(MC)は従来のSCCの研究においてその重要性は論じられていなかったが、本研究におけるMCは、CC以上のスケールへの組織化を論ずる上で重要である。MCやCCの維持において、従来の熱帯の雲システムにおいてその重要性が論じられてきた雨水の蒸発によるコールドプールと暖湿な環境風との相互作用がSCCにおいても本質的な役割を果たす。SCCは総観スケールくらいの水平スケールをもつが、この雲群はより大きなスケールの鉛直循環を励起する。この鉛直循環を伴う擾乱は東進重力波の構造をもち、SCCと協力的である。すなわち、wave-CISKのメカニズムの存在が対流をパラメタライズしないモデルから示唆される。
- 社団法人日本気象学会の論文
- 1999-08-25