土壌肥料学と農業技術移転
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概要
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地域や国を越えて,農業技術移転をはかるには,より多くの耐えざる努力が必要である.このような技術移転は,試行錯誤によって行われることが多いが,最近は,より科学的なアプローチも発展してきている.生物的過程をシミュレートしたり,各種のインプットや地域要因変数と作物の収量との関係を規定する方程式モデルをたてたりすることは,大きな可能性を秘めてはいるが,今のところ成功例は少ない.それに対して現状では,類推にもとづく技術移転(analogous transfer of technology)が比較的有効であり,とりわけ土壌を基盤にした技術情報の移転に対しては,より適した手法と思われる.土壌肥料学における類推にもとづく技術移転は,Soil Taxonomyのようなしっかりした,正確な土壌分類体系に基礎をおくべきである.たとえばVertisol のように比較的均質な土壌目(第1図)においては,亜群あるいは大土壌群段階における農業技術がうまく導入できるかもしれないが,その際,管理するうえでの大切な特性を見逃すことのないように注意しなければならない.土壌ファミリーレベルにおける技術移転も可能のはずである.同じ亜群に含まれる類似のファミリー,または関連する亜群,大土壌群に含まれ類似の関係にあるファミリー間における技術移転は,かなり信頼性は高いと推測されるが,実際にそれを行ってみて,その仮説を吟味し,それらの土壌分類の改訂に貢献することもまた必要である.Vertisol は半乾燥熱帯地域に広く分布しており,現在の利用水準よりはるかに大きな潜在力を持っているので,このような調査研究にはいっそう高い有効性が与えられてよいように思われる.Vertisolは,中央インドに広く分布しており,その潜在力は現在の利用をはるかにしのぐ.新しい技術開発は,国際半乾燥熱帯作物研究所(ICRISAT)における標準的な(benchmark)Vertisolを対象としてなされてきており,その技術がより広い範囲で適用できるような試験が行われつつある.数種の特性のわかった土壌に対するこのような試験の結果は,特定の地域で勤勉な農民が得ている平均収量と対比しながら,その技術の土壌適合性の程度を明確にすることができる.これが確立するならば,土壌適地図(soil suitability map)を 描くことができ,地域開発計画に応用することができる.詳細で,踏査的な土壌調査によって,ある地域の土壌分布パターンを合理的に描出しうるどころでは,土壌適地図はよりスケールの広い地域計画に適用することができる.それは,より合理性のある投資や,終局的には農業生産と国民の福祉を改善するための基礎となるものである.
- 社団法人日本土壌肥料学会の論文
- 1985-08-05