スタビライゼーションスプリント装着直後の下顎位の変化
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概要
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顎関節症に対するスタビライゼーションスプリントの治療効果は広く認められている.またスプリントが感覚-運動系に関与することによる下顎偏位の改善効果として,多くの症例で仮設的に報告されているが,この作用機序は科学的に立証されたものではない.そこで本研究はスプリント装着直後の下顎位の変化を,それぞれ咬合に問題のない正常者と顎関節症自覚者で比較し,スプリントの下顎位修正効果を検討した.被験者は問診の結果,顎関節症の症状のない正常群5名,症状を自覚している異常群8名とした.30秒間のタッピング運動を被験運動とし,6自由度顎運動測定器(小野測器社製ナソヘキサグラフ)を用いて下顎切歯部と左右下顎頭部の3点の動きを測定した.実験条件は,スプリント装着した状態で測定(条件1),その直後スプリントを撤去した状態(条件2)とした.その後スプリントを3時間継続装着させたのち,スプリント装着状態での測定(条件3),さらにその直後,再びスプリントを取り外した状態(条件4)とした.解析1:計測結果から3計測点のタッピングポイントを波形分析ソフトを用いて導出し,4条件間で分散値を比較し統計解析した.その結果,スプリント装着時と非装着時の分散値を比較すると,3点とも前後方向において有意な差がみとめられ,装着直後,3時間後とも3点の分散はスプリント装着時に正常群と比較して異常群の方が有意に高かった.解析2:スプリント上における,閉口終末位の垂直的位置と同じ水平面座標点を,スプリント非装着時の閉口路上から装着状態に対応する下顎位として抽出し,各点の装着,非装着時の位置移動を調べた.その結果,正常群では3点とも装着直後では有意な移動が見られなかったのに対し,異常群では有意に前方へ移動した.しかし3時間後の各点の移動量は,正常群と異常群間に差がなかった.以上の結果から,スプリント装着によって,正常者では,タッピングポイントの安定性を示す分散に変化が無く,またスプリント装着時と非装着時で閉口経路が一致しており,習慣性閉口経路上の水平面的位置に,変化が無かったことから,機能的咬合系における,正常度の診断の有効性が示唆された.顎関節症の症状を呈する異常者では,スプリントを装着することにより切歯点,左右下顎頭点における,タッピングポイントの安定性の低下が認められ,閉口経路が前方に移動していた.習慣的な咬頭嵌合位をスプリント装着によるマスキングを行うことにより遮断した結果,新たな閉口経路を導き出されたと考えられる.この閉口路が生理的な調和の取れた安定したものとは考えにくいが,この現象は異常度の診断には有効である.
- 2002-06-25