有床義歯装着後の咀嚼筋活動からみた順応過程に関する研究
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概要
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適正に作製された義歯において, 装着後安定した機能を営むようになるまである程度の期間を要することが, 義歯の"馴れ"として臨床的に観察されている. そこで, この期間に対応して, 咀嚼筋活動にも何らかの変化が生じているものと考え, 新義歯装着から経日的に咀嚼時の咀嚼筋筋電図を記録, 分析し, その順応過程を筋電図学的にとらえることを目的とした. 被検者は, 臼歯部に咬合支持がなく, 旧義歯に最小限の修正を行うことによって, 新義歯装着まで安定した咀嚼機能の維持が可能であることを確認した患者5名を選択した. 新義歯の設計は, 旧義歯と大きく変わらないように行い, 通法により製作した. 新義歯装着に際して義歯床粘膜面の適合検査と調整, および咬合調整十分に行い, それ以後の調整が最小限のものとなるように努めた. 被検運動はかみしめと咀嚼運動とし, 被検食品を1.5cmのかまぼことレーズン4gとし, これらを患者に嚥下終了まで任意に咀嚼させた. 筋電図の記録は被検筋を両側咬筋, および両側側頭筋前部とし切歯点での顎運動動径とともに, パーソナルコンピュータに同時記録した. データの集録は新義歯装着直後, 1日, 3日, 1週, 2週, 3週, 4週後の各期日に行い, このとき保管しておいた旧義歯を患者に装着し同様の記録を行った. 得られた筋電図波形は, 咀嚼時の筋電図の時間的要素(duration, interval, cycle time)を計測し, さらにMKGのvertical曲線を参考にして歯の接触点を求め, これを基準に筋電図の各バーストを2分し, 時間的要素については歯の接触する前の筋活動持続時間(duration preceding tooth contact : DPTC)と, 歯が接触したあとの持続時間(duration outlasting tooth contact :DOTC)を計測した. 同様に積分値については, 歯の接触する前(activity preceding tooth contact: APTC), および歯が接触したあと(activity outlasting tooth contact: AOTC)の積分値, そしてその和(APTC+AOTC)と, それぞれの単位時間当たりの積分値(mean value: MV)を算出し, APTC・MV, AOTC・MV, (APTC+AOTC)・MVとして計測を行った. 上記のパラメータについて咀嚼開始から嚥下直前までの全ストロークの平均値と変異係数(coefficient of value: CV)を求めた. かみしめについては平均電位を求め, 筋活動量とした. また咀嚼時の下顎運動経路についても, MKGにて最大開口量と側方変位量について, 咀嚼開始から嚥下直前までの全ストロークの平均値を計測し, これらを分散分析法により, 検討した. 新義歯装着時の筋電図的観察において, かまぼこ咀嚼時のduration, interval, cycle time, DPTC, DOTC, およびinterval, cycle time, APTC, AOTC, APTC+AOTCそれぞれのCV, またレーズン咀嚼時ではduration, DPTC, DOTC, およびAPTCのCVに装着1日後から1週後にかけて変動がみられ, また旧義歯との差も大きかったが, それ以降は4週後まで経日的に安定した推移をとった. これら多くのパラメータから, 新義歯は1週後には馴れとしての咀嚼筋筋電図の規則性を獲得したと考えられる. またレーズン咀嚼時のinterval, cycle timeでは4週後まで新義歯では低下, 旧義歯では増加する経日的推移をとり食品差が認められた. また1週後以降に安定した経過をとったパラメータのなかでとりわけdurationとDPTCのCV, およびかみしめ時の平均電位において, 新義歯のCVの低下とかみしめ時の電位の増大, 逆に旧義歯でのCVの増加と電位の低下によって装着1週後に新旧両義歯が交差し, その後も新義歯は安定した推移を示し, あまり使用しない旧義歯での機能低下も反映されていると考えられ, 両パラメータが義歯の"馴れ"の評価にとくに有効であることが示唆された.
- 1995-04-25
著者
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