外力に対するネコ歯根膜血流動態の変化について : レーザードップラー血流波形の周波数解析による検討
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概要
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歯根膜の血流は, 矯正力の大きさに応じて短時間内に変化し, 骨の改造現象に強く関与しているといわれている. 歯根膜の血管に関しては, その形態ならびに配置から外力に対する緩衝作用を有しており, 部位によってその対応形態が異なることや, 正常機能状態を維持するために内外環境の変化に対して, 循環状態ならびに力学的性状を変化させることが報告されている. また近年では生理学的研究により, 神経制御による歯根膜血管の拡張や収縮によって生じる血流の変化が観察されている. これらのことから矯正力を加えた初期の歯根膜血流の変化には血管の形態学的・生理学的要因が複雑に絡み合っており, このような変化は歯根膜の各部で異なることが予測されるが, 詳細については明らかでない. そこで本研究では, ネコ上顎犬歯に対して外力を作用させたときの歯根膜血流の変化について, とくにその動態の変化を調べることを目的とした. 実験には10匹の成ネコを用い, 上顎犬歯に窩壁が一層残るまで窩洞形成を行った. レーザードップラー血流計を用いてレーザー光を歯質を介して歯根膜に照射し, 近心側および遠心側の歯頚部から根尖部にかけてのそれぞれ5か所の部位で血流を記録した. またそれぞれの部位において, 外力を作用させたときの血流を記録するために, 上顎犬歯歯冠に対して近心方向へ50gの荷重を約30秒間繰り返し与えた. 外力を作用させる前とさせたときとで血流の変化について, 量的な変化として平均血流量を, 動態の変化として血流波形の形状を統計学的手法を用いて比較した. 血流波形の形状の評価は, 波形を高速フーリエ変換し, パワースペクトルを求めることにより周波数領域で行った. その結果, 平均血流量の変化はすべての測定部位において認められた(p<0.05)が, 血流波形の形状の変化は平均血流量の減少率が一番大きな近心側歯根膜の最も歯頸部よりの測定部位(-62.40±11.78%)でしか認められなかった(p<0.05, p<0.01). また血流増加の際には, 血流波形に二峰性の変化パターンが認められた. 本研究の結果は, ネコ上顎犬歯に対して外力を作用させると圧迫側歯根膜の最も歯頸部よりでは, とくに血流の動態が変化することを示している. このような変化は, その他の測定部位で血流の動態に変化が認められず量的な変化のみが認められたことや, Karitaらが神経制御による血流調節の変化パターンであると報告している"二峰性の変化"が観察されたことから, 血管が外力に対する適応能力を超えて圧迫されたことによるものであると推察できる.
- 1995-04-25