咬合高径が筋線維伝導速度および筋疲労に及ぼす影響
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概要
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咬合高径の変化が咀嚼筋に及ぼす影響について筋電図学的研究が多くなされてきた. なかでも咬合高径の増加による閉口筋の伸展に伴い筋電位周波数成分が低域ヘシフトすることが報告され, この低域化の一因子として筋線維伝導速度(以下MFCVとする.)の関与が考えられている. このMFCVは, 筋長の変化や筋疲労を反映するパラメータとして注目されており, 筋長の増加や筋疲労により低下することが報告されている. また四肢筋において, 筋長の変化は筋疲労に影響を及ぼす重要な因子として注目されていることから, 筋長が変化する咬合高径の変化は筋疲労に密接に関与していることが考えられる. しかし, これまで行われてきたこれらの研究は, いずれも筋長の変化および筋疲労のいずれか単独の研究として行われてきた. 本研究では, 咬合高径の変化と筋疲労の関係を明らかにすることを目的として, 咬合高径を変化させMFCVを計測し, 咬合高径の変化に伴う閉口筋の筋長の変化が筋疲労に及ぼす影響を検討した. 被験者は本学教員あるいは学生で, 顎口腔系に異常を認めない成人男性健常有歯顎者6名(22〜30歳)とし, 被験筋は左側側頭筋前部および左側咬筋とした. 実験1として, MFCVの計測を行うにあたり, 被験者に随意収縮を指示することにより得られた筋電位から計測する方法(以下, 随意収縮法とする), および電気的刺激を与えることにより得られた誘発M波から計測する方法(以下誘発筋電図法とする.)について, 両計測法の測定精度の比較を行った. 随意収縮法および誘発筋電図法とも著者らの方法に準じて行いMFCVを計測した. 両測定法にておのおの5回ずつMFCVの計測を行い, 各被験者において得られたMFCVを平均し代表値とした. また, 各被験者別におのおのの測定法により得られたMFCVの変動係数(以下, CV値とする)を求め, 両測定法別に全被験者において得られたCV値を平均し代表値とし, 両測定法についての比較を行った. 実験2として, 咬合高径の変化が筋疲労に及ぼす影響を調べるため, ICPおよび3種類の異なる挙上量のオクルーザルスプリントを装着することにより得られた顎位において, 誘発筋電図法によりMFCVの計測を行った. 筋疲労は, 被験者に各顎位において最大随意収縮が持続できなくなるまで維持させることにより発現させた. またこの時, 咬みしめが持続できなくなるまでの時間をストップウォッチにて計測し, 耐久時間とした. 上記の方法にて, 筋疲労前, 咬みしめ終了直後, 咬みしめ終了2分後, 咬みしめ終了5分後および咬みしめ終了10分後についてMFCVの計測を行った. また, MFCVを計測したのち, 各セッション間における有意差を調べるため, 多群間の比較として二元配置分散分析を行い, 多重比較はTukey検定を行った. その結果, 以下の知見を得た. 1.誘発筋電図法において得られたCV値は, 随意収縮法に比べ低い値を示した. また, 側頭筋および咬筋MFCVは収縮強度が大きいほど速く, 側頭筋MFCVはいずれの収縮強度においても咬筋MFCVに比べ低い値を示した. 2.咬合高径の増加に伴い側頭筋および咬筋MFCVは低下し, 咬合高径増加約10mmを境にして低下の度合いに違いが認められた. 3.実験的筋疲労により, すべての咬合高径においてMFCVは低下した. Tukey検定(危険率5%)の結果, 側頭筋では咬みしめ終了5分後に, 咬筋では2分後に筋疲労の回復が認められた. 4.咬合高径の増加に伴い筋疲労耐久時間の短縮が認められた. 以上の結果から, 咬合再構成時における咬合高径決定の重要性が示された.
- 大阪歯科学会の論文
- 1995-04-25