歯周疾患を考慮した歯科医療需給の分析
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概要
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高齢化社会の到来や歯科疾患構造の変化など, 歯科医療需給を取り巻く環境が変わりつつある. それにもかかわらず, 歯科医療需給の分析に関するこれまでの報告では, そのほとんどは人口対比率方法によって議論されているにすぎない. 著者は, 充足率(治療を要する歯科疾患量のうち, 実際に治療を受けた疾患量の割合. 有効需要/潜在需要×100で表わす.)を指標としたニード対応的方法により, 歯周疾患および齲蝕の両面から歯科医療需給を分析した. 有効需要は大阪府下の診療所(6か所)におけるカルテ調査によって, また潜在需要は以下の方法によって求めた. すなわち, 齲蝕については昭和32〜62年の間に6年ごとに発表されている歯科疾患実態調査報告から, また歯周疾患については大阪府下の事業所(25か所)におけるCPITNを指標とした産業歯科検診結果から求めた. 得られた結果は, 以下のとおりである. 歯科疾患充足率は, 未処置歯: 52.35% (乳歯: 38.56%, 永久歯: 55.33%), 欠損補綴: 34・36%および歯周疾患: 41.37%であった. このことから, 齲蝕および歯周疾患の治療はいずれも治療を要する疾患量の約半数あるいはそれに満たない程度しか行われていないことが判明した. また, 歯周疾患のCPITN個人コード別充足率は, 個人コード1〜4 : 15・53%, 個人コード2〜4: 40.03%および個人コード4: 108.16%であった. すなわち, 歯周疾患が重篤になるほど治療はよく行われていることがわかった. それは, 歯周疾患が軽症のときは歯科診療所に通院しないが, 重篤になると自覚症状を伴うので, 治療を受けに行くことを意味している. このように, 歯槽膿漏症指導管理および歯石除去にそれぞれ対応する個人コード1〜4および2〜4の充足率が低かったことは, これらの潜在需要の顕在化およびそれに対処すべき職種である歯科衛生士の養成および衛生士としての職務の遂行なども, 今後の課題として考慮する必要のあることを示唆するものである. 次に, この歯周疾患の充足率を向上させるための要因分析を行った. そのために, 西日本におけるCPITNの結果から, 歯周疾患有病者率の府県別差は歯科医師数および歯科診療所数の差に起因するのではないかという仮設を立て, それを実証した. すなわち, 歯周疾患の有病者率には地域差のあることを累積カイ二乗法によって明らかにした. また, コレスポンデンス・アナリシスおよびカイ二乗検定を行って, CPITN個人コードを二値化した結果, 個人コード0〜2の識別能は低く, 2と3および3と4の識別能は高いこと, また地域差は個人コード1〜4を有病とすると有意ではないが, 2〜4を有病とすると有意であった. そこで, 個人コード2〜4を有病としたときの有病者率を目的変数とし, 歯科医師数および歯科診療所数を説明変数としてロジスティック回帰分析を行った. その結果, 個人コード2〜4の歯周疾患の需要に対処するために, 歯科医師数増加の必要性が明らかとなった. しかし, 単に歯科医師数を増加するだけでは, 医師誘発需要仮説にみられるように, 歯科医療需要も増加する可能性もある. そこで, 官公庁や保健所, 保健センターに勤務する歯科医師の分散や増加を図る必要があると結論した.
- 1995-04-25