歯周ポケットにおける病原酵素産生菌の分布
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概要
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これまで歯周ポケット内細菌の直接的病原因子としては, Porphyromonas gingivalis (P. gingivalis), Treponema denticola, Bacteroides forsytthus と一部の Capnocytophaga が産生する trypsin 様活性, P. gingivalis Actionobacillus actinomycetemcomitans と一部の Prevotalla intermedia (P. intermedia) とが産生する collagenase 活性, P. gingivalis が産生する protease 活性および一部の P. intermedia による lecithinase 活性や粘性物質産生などが報告されている. しかし, 上述の酵素や粘性物質の in vivo での病原的役割はまだ明らかではない. ヒトの嫌気性菌感染症から分離した細菌の加水分解酵素産生性を検討した Steffen らは, Bacteroides, Clostridium, Peptostreptococcus が heparinase, hyaluronidase, chondroitin sulfatase, collagenase などの酵素を産生することを明らかにしている. また, 多々見は, 蜂巣炎から分離した細菌の酵素産生性を検索した結果, DNase, β-lactamase, hyaluronidase, chondroitin sulfatase および collagenase の平均分布比率はそれぞれ 36.8, 20.3, 19.5, 16.2 および 15.5%であったと報告している. 一方, 常在菌叢や慢性根尖性歯周炎では, これらの酵素の比率はいずれも5%以下であった. それゆえ, DNase, β-lactamase, hyaluronidase, chondroitin sulfatase および collagenase 産生菌が感染根管由来の疾患の増悪化に大きな関わりをもつと考えられている. 本実験では, 歯周ポケットの組織破壊進展メカニズムのうち, 急性発作時におけるポケット内細菌の直接的病原因子を明らかにするために, 急性発作部位と非発作部位から細菌を分離し, 酵素および粘性物質産生性を検索するとともに, その産生菌を同定し, 以下の結果を得た. 非発作部位においては collagenase および DNase 産生菌の比率が高く, 平均値はそれぞれ22.0%および18.4%であった. しかし, β-lactamase (5.7%) および trypsin (5.1%) を除く他の酵素産生菌の比率は, いずれも5%以下であった. 一方, 急性発作部位においても collagenase および DNase の産生菌の比率は高く, それぞれ30.4%および22.6%であった. 加えて, trypsin 産生菌の比率は17.6%を示した. しかし, 他の酵素産生菌の比率はいずれも5%以下であり, collagenase, DNase および trypsin 産生菌が急性化に大きな影響を及ぼしていると考えられる. 酵素産生菌を同定した結果, 非発作部位での collagenase 産生における優勢菌は "milleri" group streptococci (16.0%) であり, ほかに Prevotella, Lactobacillus, Fusobacterium および Veillonella などが本酵素を産生することが示された. 一方, 急性発作部位での collagenase 産生菌においては, P. gingivalis が優勢であり, 53.7%を占め, ついで Fusobacterium, "milleri" group streptococci の順であった. DNase 産生菌としては, 非発作部位では "milleri" group streptococci がもっとも優勢であり, ついで P. intermedia, Lactobacillus, Actinomyces が上位にランクされた. 一方, 急性発作部位では P. gingivalis が60.0%を占めた. Trypsin 産生菌として, 非発作部位では P. ggingivalis が42.0%を占め優位であったが, 急性発作部位では91.3%であった. 以上の結果から, いずれの酵素とも急性発作部位では P.gingivalis が主役を演じており, 宿主側の防御因子が減弱したとき, なんらかの要因で P.gingivalis が選択的に増殖し, 産生される collagenase, DNase および trypsin 活性が歯周ポケットの急性化に大きな役割を果たしていると考えられる.
- 大阪歯科学会の論文
- 1994-04-25
著者
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